くら(5)2009/02/10

 古代の人々が認識した「くら」は人間の行住坐臥に限らなかった。とりわけ鳥類に寄せる思いは深かったと想像される。例えば「とぐら」は野鳥が巣立つために必要な場所や空間を指し示す表現であり、巣の意味に使われていた。この表現は後に人為的な鳥小屋をも含めて使われたことが知られている。万葉集182には、手作りの「とぐら」によって飼育した雁(かり)が成鳥となって巣立つときの思いが詠われている。
 家へ帰ることを時に「ねぐらへ帰る」などと言うが、この「ねぐら」という表現も元を正せば野鳥などの眠る場所を指すものであった。列島の先人たちが身辺のどんな事柄に関心を寄せ、それを理解し、伝えようとしていたかが偲ばれよう。
 なお馬や牛などの背につける鞍についても人間の知恵から生まれたものであり、尻を載せるために造られ一定の広さをもっている点など「くら」に通じる特徴を備えている。但しなぜ馬や牛との複合が起こらなかったのか、この点が不明である。