天然物と養殖物(2)2009/02/19

 野菜や果物が商品として販売されるとき、それらの価格を決するのは需給関係と商品そのものがもつ魅力である。魅力とは味であり、姿の良さであり、そして重さや大きさである。味には近縁の品種や在来種などとの対比も含まれ、時に微妙な食感や個人差なども影響する。栽培にあたっては、供給時期への配慮とともに、これらの魅力をいかに増大させるかに意を尽くさなければならない。
 しかし食する側に何世代も何十世代も前の先祖が食したであろう野生種の味や食感が伝わっているはずはなく、それらとの対比が話題にされたり、それらに対する郷愁が口の端に上るおそれはない。陸生の野菜や果物について見る限り、元の野生種は忘れ去られたも同然の全く無縁な存在となっている。それらの味や食感を意識して栽培する必要など微塵もないのである。
 動物の場合も食用にされるのは家畜として飼育された陸生動物が一般的である。味の対比は他の食用動物との間かまたは同一品種や近縁品種との間で行われ、飼育地や飼育方法などに関心が集まる。動物の場合は飼料の影響が特に大きく、ついで飼育地の広さなど運動環境が問題になる。広さが問題となるのは、動き回ることで筋肉の発達を促して肉質を良くし歯触りや歯応えといった食感の因になるからだろう。何にせよたまたまイノシシの肉を食べた人がその味や食感を表すために豚肉をもちだすことはあっても、豚肉の味を評するために原種であるイノシシの肉をもちだすことはまずない。いまや猪肉に郷愁を懐く人は稀だろう。