さはり2009/03/10

 名詞「さはり」は、動詞「さはる」の連用形が転じた言葉である。「さはる」と同様、自分の意思で接触するときは接触する側の都合や立場だけを表す音声表現として使われ、接触される側にあっては相手側から受ける影響などを表す音声表現として使われた。そして「てざはり」「はざはり」「したざはり」「はだざはり」「みみざはり」「めざはり」などの複合語を生み出していった。
 これらの複合語はいずれも、親である「さはる」の意味や用法を忠実に受け継いで生まれた。話者の意思に応じて動くことのできる「手」や「歯」や「舌」や「肌」と結合した「さはり」は文字を獲得後、「触り」と書き記されるようになった。また普段、話者の意思とは無関係に光や音の刺激にさらされている「耳」や「目」の場合は、もっぱらそうした刺激の影響を受けるだけなので、文字の獲得後は「障り」と記された。
 これが、話者の行為の音声表現である「さふ」に始まり、「さはる」を経て「さはり」を生み出し、さらに五感と結合させて「てざはり」や「めざはり」などの言葉を新造した先人たちの知恵である。そして、文字の獲得によってそれらを「手触り」や「目障り」と記録したのは、先人たちの知恵が常に進化を続けるものであったことを示している。いま我々が口にする言葉、目にする言葉のいずれもがそうした知恵の延長線上にあることを忘れてはならない。