とてつもない(1)2009/03/14

 特定の名詞に「もない」を付けた慣用的な表現を目にすることがある。「あられもない」「かくれもない」「ぞうさもない」「とてつもない」「にべもない」「まぎれもない」「らちもない」などその例は少なくない。明治中期の言文一致運動による口語体小説の確立によって顕著になった表現とも言えるが、その萌芽は江戸時代につくられた読み物類にも見ることができる。戦乱が途絶え世の中が落ち着きを見せたことで人々の会話にも従来より多彩な表現が必要になり、まずは特定の名詞が示すような事柄だけを強く否定する表現が使われ出したのであろう。
 だが、いまとなっては元の名詞が何であったかすぐには想像のできないものも多い。上記の例で言うなら「かくれ」や「まぎれ」の想像はついても、「とてつ」の原義はまず浮ばないだろう。「にべ」が海の魚と聞かされても、それが「愛想がない」や「そっけない」の意に転じるまでの過程はなかなか想像できないだろう。「にべ」は日本の文化や技術と深く関わった魚であり、「にべもない」は接着技術の発展を背景に生まれた独特の言い回しでもあるのだ。

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