読会と聴く力2009/03/29

 内容は少し固いが大事な話である。ブログの紹介に出ている「読会」とは何でしょうかと質問された。大量の活字を使って紙に印刷する技術が発明されたのは500年以上も昔のことである。木板を使う版画のような方法もあるが、そのたびに版木を彫り直さなければならない。活字による印刷といっても、活字を拾って文字を組み、原稿に合わせて文章に仕上げなければならない。紙に刷るのはそれからである。現代のコピーのように誰でも機械さえあれば簡単に複製ができる時代は、まだ30年くらいの歴史しかない。
 そんな時代の議会審議は大変である。議案のコピーを議員に配るなどということはできなかった。そこで初期の英国議会で採用されたのが議案を読み上げ、議員に聴き取ってもらう方法だった。審議に先立ち書記官が議案を3回読み上げる。議員はこの間に必要なメモを取り、頭の中に条文や議案の骨子をしっかり叩き込まなければならない。それができなければ議員は務まらない。居眠りなどする暇はもちろんない。読み上げ役の書記官も大変である。読み間違いは即、誤解の因になる。まさに真剣勝負、ピンと張りつめた空気の中で議事は進行した。こんな芸当ができたのは、当時の人々にはまだ聴く力があったからである。
 こうしていつも議案の読み上げ(reading)から議会審議は始まることになり、いつしか reading は議案審議の方法・手順を示す言葉として使われるようになった。読会(どっかい)は、これを日本語化したものである。明治23年(1890)の帝国議会開設に先立って制定された議院運営に関する法律「議院法」には「法律ノ議案ハ三読会ヲ経テ之ヲ議決スヘシ」と記されている。この三読会は提案から審査を経て採決に至る議案審議の方法・手順を示したものである。なお議院法は昭和22年(1947)5月に廃止された。現在の国会法に読会の文字を見ることはない。