春さらば(2)2009/04/07

まだ、お花見気分…。
 言葉の意味を調べるとき古語辞典で「さらば」を引くと、「然らば」が出てきます。多くの人が「そうか桜も終わりか」と考えるのは、この言葉(別れるときの挨拶「さようなら」に相当する語)の影響があるからです。しかし「春さらば」は、これとは関係ありません。もし辞書を引くなら終止形の「さる」を探します。「さらば」はその未然形に助詞の「ば」が付いたものです。未然形は事態がまだ起きていないことを示す役割を担っていますが、まだ起きていないが起こるであろう事柄への憧れや期待感を示すときにも使われます。
 元々「さる」は時間が経つにしたがって(話し手の意思に関係なく)物の状態が変わってゆくことを表す言葉でした。移ろう、と言い換えてもよいでしょう。主に時の移ろいや色の変化を示す言葉として使われました。色の例では雨による桜の花の色あせを薄情さに掛けた「雨降れば 色さりやすき 花桜 薄き心を 我が思はなくに」(貫之集)がよく知られています。
 このように「さらば」は、これから移りめぐってくることも、移り去ってしまうことも、どちらにも使える表現でした。だから春だけでなく他の季節にも朝や昼や晩にも自由に使うことができたのですが、万葉集における用例を確かめると実際には秋が7首、春が5首、夕が4首でした。うち1首は「秋さらば 黄葉の時に 春さらば 花の盛りに」と、 秋と春の両方に関係するものです。

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