五月の風(7)2009/05/09

素朴さと密やかさと
 子どもの頃、エビネは都市近郊の小高い丘や山道脇の斜面に普通に見ることのできる花だった。ランの仲間と聞いてもすぐには信じられないほど、その印象は素朴である。群がって咲いてはいても、どこか密やかなところがある。それが高度成長による住宅開発のあおりを受けていつの間にか生育地を狭められ、奪われ、果ては園芸業者に乱獲されたり愛好家に持ち去られてすっかり姿を消し、とうとうレッドデータに掲載されるところまで来てしまった。
 狭い日本の中ではあるが、それでも人目につかない場所、人を寄せ付けない場所というのはまだまだ残っている。消えたと言われる市町村の中でも思わぬ場所に咲いている。密やかではあるが決して、か弱いだけの花でもない。