○木苺の花--夏便り2009/06/19

 子どもの頃、よく田圃のあぜ道や土手を這うようにして、野イチゴの実を探し回った。そんな実のあることを教えてくれたのも多分、父であろう。水田の見回り中に見つけると、子どもを喜ばせようと手土産のように持ち帰ったのだ。列島に暮らす人々はこのようにして親から子へ子から孫へと、食べられる木の実とそうでないものとの識別を伝えてきたのではないか。
 だから、もらって食べたのは真っ赤に熟れた濃い紅色の野イチゴが多かった。長じて少し遠い山道まで足を延ばすと、棘(とげ)のある藪の中に黄色の野イチゴを見つけることがあった。これを教えてくれたのが誰であるかは思い出せない。叔母かも知れないし、近所の長上の子供たちかも知れない。味はやや浅い気がする。だが決して悪い味ではなかった。
 以来、田圃のあぜ道で見つける紅色の野イチゴが苗代苺、藪の中の棘と一緒に見つける野イチゴが黄苺だと考えるようになった。掲載した一枚は藪にできるキイチゴの園芸種である。花と、熟す前の実とが写っている。果たしてこの実はどんな色に熟すのか。(この続きは「木苺の実」に掲載)

■政党崩壊--新釈国語2009/06/19

 政党は、政治に関わる主義や政治的な主張に基本的な共通項または多くの共通点を持つ者が寄り集まって組織する団体のこと。所属する構成員は党員と呼ばれ、組織としての目的、運営方針・方法、党員の義務・責任範囲などを成文化して規約とする。そのため党員は常に規約に則って自分たちや支持者の意見を集約し、討議・検討を経てそれらを統一された党の政策にまで高め、議会運営などの諸活動を通じて実現を図ろうとするのが一般的な姿である。これに対し崩壊は、何らかの理由でこうした活動が停止したままになったり、組織としての統一ある行動に乱れが生じて党員がバラバラに活動したり、時には規約を無視した行動が恒常化して収拾のつかない状況に至ることを指す。政権末期の与党内に典型的に現れる症状でもある。

○木苺の実(1)--夏便り2009/06/19

 キイチゴを黄苺と考えたのは誤りだった。植物図鑑などにはバラ科の小低木とある。漢字を当てるなら、木本性(もくほんせい)という意味で木苺の方が適している。但し音は同じだから耳で聞いただけでは区別が付かない。黄苺と思い込んだ原因もひとつはここにある。
 実の色は黄色系と赤色系に分かれる。黄色系よりも濃い紅色の方が多そうだ。写真はルビーのような綺麗な色のキイチゴの実である。よく見ると左の隅に、まだ熟す前の黄色っぽい実が写っている。

  木苺や乙女の日焼血の色に  中島斌雄

○木苺の実(2)--夏便り2009/06/19

 昔、山道で見つけたキイチゴはこの写真に近いものだった。高いところになっているものは摘み取るのに苦労した。棘のある痛い藪が人を遠ざけていた。手に入れ口に入れるためには藪と闘わなければならない。バラ科という説明も、この藪と棘を知っていれば納得できる。
 写真のキイチゴは少し太めの幹を高く伸ばした先の、か細い枝の先に空からぶら下がるように付いていた。もちろん下には藪があった。手は届かないが、何とか写真だけは撮ることができた。「下がり苺」と呼ぶ地方もあるそうだ。

  木苺の熟れて正午の寺の鐘  浅見千代子