◎一歳児(4)2009/07/13

 生後数ヵ月から一歳未満の子ども達を何人もまとめて長期にわたって観察する機会は乳児院か保育園ぐらいにしかない。小児科医には地域の乳児に広く接する機会が与えられていても、定期検診か親が子どもに何らかの異常を感じたときでなければ訪れることはない。それに何人かの子どもをまとめて診るということもない。異常が解消されれば来なくなる。保健所が行う定期検診でも事情は同じだろう。だから保育園に預けている乳児のことを一番よく知っているのは母親かまたは担当の保育士ということになる。
 全部で8人いる乳児の中に目立って大きな女の子がいて、もうすぐ誕生日を迎える。つかまり立ちもできるし、元々が活発な子でよく動き回るから目が離せない。保育園に来たのはまだ這い這いができる前だったが、まるでオットセイか何かのように大きな身体でごろごろと転げ回った。とても同年齢とは思えないほどの体重がある。小さな子が下敷きにされ、窒息するのではないかとハラハラした。
 この子の姉も保育園にいるが決して身体は大きい方ではない。ごく普通の体格をしている。母親に聞くとずっと母乳で育ててきたという。保育園にいる間はミルクを飲ませたが、家ではつい最近まで母乳だけだった。両親の体格も普通である。いわゆる固太(かたぶと)りなのかも知れない。決してぶよぶよしたところはなく、肉付きは固く締まっている。しかも性格が猪突猛進型なのか、目の前に乳児が寝ていようが遊んでいようが構わずに真っ直ぐ這ってゆく。欲しいと思えば腕力で奪ってしまう。
 最近はこれに頭突きが加わって閉口している。どこで覚えたか相手の子におでこをがつんとぶつける。本人はどうも遊びか挨拶のつもりらしい。しかしぶつけられた方はたまらない。驚いて火がついたように泣き出す。「わぁ、またやった」と保育士が現場に急行して宥(なだ)める。乳児の世話は一人で3人の子を委されるが、この子だけはそうもいかない。人一倍手が掛かる。
 しかし憎めない子でみんなが気に掛け、みんなから可愛がられている。夕方には姉も顔を見せ、部屋の隅から心配そうに覗いてゆく。ちょうどその頃に人一倍大きなウンチをしてみせるのも、この子ならではの技と言えるだろう。(つづく)

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