◎一歳児(5)2009/07/14

 夕方6時を過ぎると、保育園では補食を摂らせる。ちょっとした、おやつのようなものである。乳児の場合は粉ミルクを溶いて飲ませるが満12ヵ月を過ぎると、こちらもおやつに切り替える。心配性の保育士の中には一週間分のメニューをお昼と補食に分けて保護者に示し、食べ慣れないものが混じっていないか、過去に問題を起こした食品がないか、よく点検して欲しいと頼んでいる。
 しかし食材に注文が付いたという話は滅多に聞かない。多くの親はそれどころではない、というのが実情のようだ。乳児ではないが、朝からカレーの臭いを漂わせて保育園へ来る二三歳児もいる。顔見知りの子はたいてい「○○せんせー」と駆け寄って来て頬ずりなどをしてもらう。だから朝、家で何を食べさせてもらったかがすぐ分かる。私立の中には園長が信念をもって親の指導に努めるところもあると聞く。だが、公立の場合は何事も大過なくが基本である。家でどう過ごすかは役所の責任範囲ではない。何も食べてこないよりはましだろう、と近頃は半ば諦めている。
 さて例の固太りの子が目出度く1歳の誕生日を迎えた日のことである。その日から補食も固形物に替わった。その日の補食は小さなお煎餅が2枚だった。1枚を口に入れ舐め回していると、溶けていつの間にかなくなってしまった。すぐに、もう1枚を口に入れた。その間、1分もかからなかった。その子は3枚目をねだった。「もうないの」と言っても承知しなかった。納得させるために、そこら中の引き出しを開けたり、箱をひっくり返したりして見せた。しかし承知しなかった。
 物足りないのだ。胃袋に消化液があふれ、口に唾液が溢れ出て身体が納得できない様子だった。大きな身体の子どもに味だけは一人前の、しかし量としては中途半端なものを食べさせるのは罪である。こちらも迂闊だったが、事前に気づいたとしてもどうすることもできない。決められたとおりの時間に、予め準備されたものを決められた通りの手順で食べさせるしかない。大人でも海老煎餅などは一枚食べると、止めどなくいつまでも食べたくなって困る。最後は「ゴメンね、もうないの」と何度も謝り、抱きあげ抱きしめて補食の部屋を出た。(つづく)

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