■御都合主義(1)--新釈国語2009/09/12

 一定の見識をもつことなく、その場凌ぎで物事を処理したり行動することを軽蔑していう言葉。都合の前に付けた御(ご)の文字と末尾の主義がこうした行動に対して軽蔑の眼で見ていることを表す。都は旧字体では者の部分にもう一画、点が付いている。今も奢や緖には使われている字体だが、人が集まるの意があり、人が集まってできる邑(むら)の意となった。都(みやこ)はこれに部首の大里を付けることで、邑がさらに発展して人口が増えたことを表している。なお都会も都市も都の音は漢音の「ト」であるが、都合や都度の場合は呉音の「ツ」になる。これは後者が日本で生まれた漢語風表現だからである。そのため都合も漢音を用いて「トゴウ」と読むと意味が変り、全部を足す・合わせるなど総計の意となる。

 御都合主義(ごつごうしゅぎ)はもちろん誉められたことではない。だが、何でも不変の見識さえあればよい・示せばよいというものでもない。例えば大企業の経営者が自社の利益のみを守るという大方針・定見の下に法人税は上げるな・引き下げよ、温室効果ガス削減目標は緩和せよ、などと叫ぶのはいかがなものであろうか。官僚や政治家が国益を守るという不変の大方針を理由に軍備増強に走り、原発推進のみを唯一のエネルギー政策と主張し、そのために惜しみなく税金をつぎ込もうとするのは本当に国民の安全に役立っているのだろうか。食料の大半を海外に依存するという政策は誰のためにあるのだろうか。(つづく)

○写真は松葉ボタン。夏を謳歌したこの花にも秋の気配が漂い始めている。

○吾亦紅(1)--野の草花2009/09/12

 子どもの頃、植物の名をワレモコウと聞いても取り立てて感慨を覚えることはなかった。草だろうか、花だろうかと不思議に思っただけである。それが、長じて書物の中に吾亦紅の3文字を見つけたときは、これぞまさしく先人の知恵、何と優雅なと感じ入った。
 多年草でもあるこの植物の漢名は地楡(じゆ)という。褐色を呈し太くて逞しい根っこの薬効に注目したが故の呼称であろう。それに引き替え、わが和名の何と優雅なことか。しかも漢文調に「ワレモマタカウナリ」とは実に愉快な命名ではないか。と独り悦に入って喜んだ。発見でもあった。そして紫式部が「源氏物語」の中で、この植物にも言及していることを知った。
 源氏の話は明日に回し、今日は藤原忠俊の娘が白河皇女郁芳門院に仕えて安芸と呼ばれたときに詠んだ和歌を紹介する。鳥羽天皇后にして後白河天皇生母と言われる待賢門院にも出仕したと伝わる女性だから、時代としては紫式部より100年近く後のことであろう。

  鳴けや鳴け 尾花枯れ葉の きりぎりす われもかうこそ 秋は惜しけれ 郁芳門院安芸