○吾亦紅(2)--野の草花2009/09/13

 ワレモコウは光源氏亡き後の子孫たちによる色恋を描いた第42帖「匂宮」に登場する。元服して兵部卿(ひょうぶきょう)となった匂宮と右近中将(うこんちゅうじょう)となった薫の、色男二人が競う物語でもある。生まれつき芳香の漂う薫に対抗し、何とかよき匂いのする香を得んと心を砕く兵部卿の様子が綴られる中に、春の梅に始まって晩秋の霜が降りる季節までの草花が織り交ぜられている。

 かく、いとあやしきまで人のとがむる香にしみたまへるを、兵部卿宮なむ異事よりも挑ましく思して、それはわざとよろづのすぐれたる移しをしめたまひ、朝夕のことわざに合はせいとなみ、御前の前栽にも、春は梅の花園を眺めたまひ、秋は世の人のめづる女郎花、小牡鹿の妻にすめる萩の露にも、をさをさ御心移したまはず、老を忘るる菊に、衰へゆく藤袴、物気無きわれもかうなどは、いとすさまじき霜枯れのころほひまで思し捨てずなどわざとめきて、香にめづる思ひをなむ立てて好ましうおはしける。

 ワレモコウを形容する「物気無き」とは、とても一人前とは思えないの意である。これは秋の季節、野の草に混じって林立するワレモコウに対し紫式部が抱いていた印象でもあろう。今から一千年も前のこととは言え、この植物のどこに・何を見るかはまさに人それぞれであることを知って興味深い。

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