◆事務次官不要論のすすめ(3)2009/09/19

 政官癒着を放置した責任の一端は新聞や放送などマスコミにもあることを新閣僚就任の記者会見は教えてくれました。マスコミはみずからの不明を恥じ、改める必要があります。そのためには自覚が必要です。一方でマニフェストが大切だと叫び、政権交代が実現するや今度は旧政権の政策維持を主張するのは矛盾以外の何物でもありません。そんな恥知らずな主張を購読料を取ってまで紙面で展開するのは詐欺にも等しい行為です。
 自分たちの取材の容易さ・都合、果ては取材の自由まで持ち出して事務次官会見などがもつ矛盾点に目をつぶるのも困ったことです。官庁がマスコミのために仕事をしたり、マスコミの利用を仕事の一部と考えるような官僚に、なぜ手を貸すのでしょうか。今回の通達に便乗して気象庁長官や駐米大使や国連大使の会見まで中止するのは官僚によるこれ見よがしの嫌がらせです。一種の思考停止、サボタージュと呼ぶに等しい行為です。官僚もマスコミも、自分たちの一挙手一投足が国民・購読者の厳しい目に晒されていることを自覚しなければなりません。マスコミ企業も今、温室効果ガスの削減に真っ向から反対して株主に見放されつつある見識不足の大企業経営者と同じ立場にあるのです。
 政権交代が政治部記者の将来まで変えてしまったショックは理解できます。しかし政官癒着の時代に築き上げた身勝手な因習・取材の省力化にいつまでもしがみつこうとするのは、マスコミもまた自民党政権と同じ古い体質の持ち主であることを示すだけです。見苦しいの一語に尽きます。政権交代を現実の出来事として一日も早く受け入れ、頭を切り換えて一から出直すことを勧めます。体質改善の遅れの先に待ち受けるものが紙メディアの終焉でないと誰が断言できるでしょうか。(了)

○百日紅(2)--夏の終りに2009/09/19

 和名のサルスベリはしかし、百日紅だけに与えられた呼称ではない。サルスベリとは猿が滑るの意だから、そのまま漢字で記せば猿滑となる。だがサルでも滑りそうな幹肌のつるつるした樹木は他にもある。例えば沙羅は幹の表面が百日紅以上に滑らかだ。手で触ってみると、いかに滑らかでつるつるしているかがよく分かる。従って沙羅をサルスベリと呼ぶ人がいても何らの不思議もない。実際、沙羅にはサルスベリという異称もある。
 この季節、百日紅は幹の皮が細長く捻れたようになって剥がれ落ちる。一方、沙羅の幹でも表皮の剥離は起きるが、剥がれる様子がまるで違う。部分的にめくれ上がったところが剥がれ落ちる小規模な剥離である。これが箱根姫沙羅となると剥がれるというよりは、すりむけてぼろぼろと落ちるといった感じである。案外これが樹皮の美しさにおいて沙羅にも百日紅にも負けない、箱根姫沙羅の美の秘密かも知れない。
 今日は子規忌だが、あいにく近所にも知人にも糸瓜(へちま)をつくる人がいない。写真の持ち合わせもない。記憶では胡瓜に似た黄色の花だったように思う。
 支考は蕉門一の論客と謳われた各務支考のこと。江戸前期の俳人、美濃の人である。蛇足ながら冒頭は「こもらばや」と読む。(了)

  こもらはや百日紅のちる日迄 支考

◆くりのきむらのゆうびんやさん2009/09/19

 この季節になると決まって思い出す絵本があります。と言っても自分の作品ですから、ちょっと格好のつけすぎですね。実はどうしても腑に落ちないことがあるのです。

 この絵本を出版したのは2004年9月です。今年の夏に政界を引退した小泉純一郎氏がまだ総理大臣をしていた頃の出来事です。その頃の小泉内閣は郵政民営化を目標に大奮闘中でしたが、自民党内では民営化反対の抵抗勢力と呼ばれる人たちが多くて苦戦を強いられていました。ちょうどその頃に完成した絵本です。もちろん郵政民営化とは何の関係もありません。

 ストーリーは動物たちが助け合って暮らす「くりのきむら」という小さな村で郵便局を開き郵便配達もしている、うさぎさん夫婦の機転を利かせた働きぶりを扱ったものです。大雨による災害と、栗の実のご馳走がいっぱい登場します。孫に会いたくて仕方ない狸のお婆さんとか、長生きをしすぎた亀のおじいさんも登場します。絵本というよりも、本格的なストーリーも楽しめる幼年童話に近い内容といったところでしょう。

 ところが、どういうわけか図書館も小学校もさっぱり買ってくれません。買ってくださるのはもっぱら個人の方が中心でした。郵便配達を定年でお辞めになるという方がストーリーに感激して、まとめて買って近隣の児童館や保育所に寄付してくださるというようなことがいくつもありました。

 しかし、どういうわけか今に至るまで、全国に4000近くもあるという図書館ではその数分の一も購入してくれません。ある時、疑問に思った知人が東京郊外の町の図書館で尋ねました。

「『くりのきむらのゆうびんやさん』という絵本を読みたいのですが…」すると返ってきた答は何と、「出版社はどこですか?」だったそうです。
知人は即答できなかったので、帰宅して調べ、電話で伝えたところ
「ああ、そういうあまり聞かない出版社の本はウチでは買いませんね。」と、自信たっぷりの返事だったそうです。
「えっ……?! ……?!」
「大切な市民の税金を使っているわけですから…。」

 図書館にはマンガや推理小説や文庫本なんかもたくさん入っているけど、みんな出版社が有名だから構わないのか。そんなものなのか図書館って、と知人はそのとき初めて、市役所や町の図書館で働く人たちの仕事の秘密というか秘訣を知ったそうです。

 でも何だか変ですよね。