○栗の実熟れて2009/09/20

 栗の実の熟れる頃となりました。初夏に独特の匂いを漂わせて咲いた栗の花が受粉に成功して実をつけると、少しずつ少しずつ毬(いが)が大きく育ってゆきます。そして晩夏の頃、毬は一気に膨んで何となく栗の実の膨らみが分かるようになります。たいていは三つ子ですが、中には双子や四つ子も混じります。ちょっとぞくぞくします。その頃、毬の内部では白い皮をつけた栗の実の充実が始まります。もう皮が白いだけで実は食べられる感じです。
 そして、この写真に見るように毬が枯れ始め、全体が茶色に変ってゆきます。と同時に、毬に白い割れ目ができ始めて、やがて栗の実が顔をのぞかせます。昨日ご紹介した「くりのきむら」の狸のお婆さんの家の裏には大きな栗の木があって、この季節お婆さんは栗拾いに精を出します。
 写真の左上に見える焦げ茶色の紐状のものは、たまたま葉に付着して落ちずに残った栗の花です。右側にひと続きになって見える浅い緑色の毬が、熟す前の栗の実です。なお下記の句の「ゆらり」の2つ目は原文では繰り返し記号です。

  見上ぐればゆらりゆらりと栗笑めり 真下喜太郎

○萩--秋の七草2009/09/20

 秋の七草は日本の秋を彩る代表的な草花7種を指す呼称です。その始まりは7種の草花を詠み込んだ山上憶良(やまのうえのおくら)の次の歌にあると言われています。

  萩の花尾花葛花なでしこの花をみなへしまた藤袴朝顔の花

 数えると確かに7種あります。だから7草だと思う人も多いことでしょう。実は憶良のこの和歌には「山上臣(あそみ)憶良秋の花を詠める歌二首」という詞書(ことばがき)があって、上掲の歌はその2首目に当たります。では1首目はどうかと言いますと、次がその歌です。

  秋の野に咲きたる花を指折りかき数ふれば七種の花

 つまり現在は多く「秋の七草」と表現されますが、「草」の意味は草花の草ではなくて種類という意味です。上掲の歌も末尾は「ななくさのはな」と読みます。万葉仮名の原文も同じく「七種花」と記されています。憶良自身が数えて7種類あることを確認した上で「七種」と詠んだのです。個々の草花ということであれば2首目の歌になりますが、「七種」あるいは「七草」という表現・呼称であれば1首目を起源と考えるべきです。
 ところで戦後は、漢字制限政策の影響で「七種」を正しく読める世代がどんどん減ってしまいました。日本人の学力が下がったとか何とか歴代の文部科学大臣などが騒いできましたが自分の国の漢字もろくに読めなくするような、そんな貧しい政策を1世紀以上も日本の文部官僚達は一貫して主張し続けてきたのです。彼等に、いつの日かパソコンのような道具が出現することを見通す力のなかったことはいうまでもありません。