○零余子(2)--実りの秋2009/09/28

 零余子はヤマノイモ(山の芋)の蔓が伸びて葉が付くと、その付け根にできる。晩秋、黄葉した葉が枯れる頃に風に吹かれると蔓を離れ、地上に転げ落ちる。そして翌年には芽を出し、地中に根を伸ばして新たな山の芋としての生長が始まる。雌雄異株だから全ての蔓に零余子が生るわけではないが、山芋とか自然薯(じねんじょ)と呼ばれる山の芋だけでなく、畑で栽培される長芋にも付く。しかも長芋に付く零余子は、親に似てか粒が大きい。特大もある。
 零余子の本当の味を知らない人は零余子採りの苦労も知らない。長芋の零余子は畑に行けばすぐに手に入り、しかも大粒だからと単純に考えてはいけない。長芋の零余子は皮の色が無粋である。その皮を剥くと紫色の身が現れる。味は大味、噛んだときの肌理の細やかさがない。一方、自然薯に付く零余子は皮も薄く、色も繊細である。くるっと剥くと濃い緑色の身が現れる。これがねっとりとして実に美味い。
 但し見つけるのも採るのも容易ではない。だが苦労して集めれば、塩茹でにして摘(つま)むもよし、白飯に入れて炊き込むもよし。晩秋まで楽しめる。(了)

  二つづつふぐりさがりにむかごかな 宮部寸七翁

○初紅葉--秋色2009/09/28

 つい先日まで「暑い暑い」と言っていたつもりでも、彼岸を過ぎてみればやはり朝晩は長袖が欲しくなる。そんな格好をして朝の散歩に出たとき、それまでは彼岸花に気を取られて気づかなかった方角に、色づき始めたヤマモミジを見つけた。草花の表情にも秋の気配は増しているが、それでも紅葉の始まったヤマモミジには叶わない。

 来月に入ればアルプスの峰々には時に、うっすらと新雪を頂く朝がある。峰近くで始まった紅葉や黄葉は大慌てで中段辺りまで駆け下りてくる。しかし山裾にはまだ多くの青葉が繁っている。これが三段モミジと呼ばれる秋の高山の遠景である。この景色を眺めたいばかりに軽装で山へ入り、遭難する人が増えるのもこの季節だ。山へ登る人はくれぐれも寒さ対策に用心あれ。

  開山はやさしき女性初もみじ 真下喜太郎