○蓼(2)--野の花2009/10/05

 藍染めで知られる藍(あい)もタデの仲間である。近頃の若い人は藍色と言わずにindigo(インジゴ、インディゴ)と呼ぶそうである。中年以上がジーパンと呼ぶ、あのデニム製ジーンズの紺系の色がindigo blue(インジゴブルー、インディゴブルー)である。但しこうした外国産のindigoの中には藍とは種類の異なる植物から採取されたり、工業的に合成された染料によるものが少なくない。

 純国産の藍色もやはり、くすんだ感じの青色をしている。藍の色の濃度は染める回数によって決まる。そこで日本語では紺色とか、縹(はなだ)色とか、浅葱(あさぎ)色などと、その差を表現する言葉を考えた。縹色は藍の色が薄く、浅葱の場合は微かに緑が混じる薄い青である。こんなところにも日本文化の特色が見られる。若者には、そういうことも知って欲しい。

 とは言え、本物の藍染めは手打ち蕎麦と同様、今では金持ちでないと滅多にお目にかかれない高価な品に変じてしまった。先祖が聞いたら世の中変だと、さぞや驚くことだろう。(つづく)

  しづけさにたゝかふ蟹や蓼の花 石田波郷

○百日草と千日草(2)2009/10/05

 百日草は確かに3ヵ月100日くらいは咲いている。決して大げさでも誇大広告でもない。しかし千日と言えば3年半を超える月日である。一年草の植物にしてはどうにも計算が合わない。明らかに誇大広告である。と、公正取引委員会が言い出しそうな呼称である。しかも千日草は通称であり、千日紅が正称だという。なにやら聞いたような名前ではないか。それもそのはず、先だって掲載したサルスベリの漢名が百日紅だから、その十倍も長く咲くというわけだ。まさに誇張であり、誇称の典型だろう。

 だが命名したのは白髪三千丈の大人達である。万巻の書を繙(ひもと)き、千々に乱れる心を抑え、万感の思いを託しての命名かも知れない。そう思って図鑑を開くと、原産地はインドとある。どうやら中国清朝を経て17世紀も後半に渡来したものらしい。江戸ではちょうど八百屋お七の恋情が激しく燃えさかった頃である。あちこちで不審火も相次いだ。この植物、葉は枯れても花の色は残る。故に不変の愛の象徴ともされる名誉な花でもある。(了)