○通草の季節(4)--秋色2009/10/26

 実は「倭名類聚鈔」にはもう一カ所アケビの登場する項目がある。しかも「通草」の和訓がアケビカヅラであったのに対し、こちらの和名は単にアケビ(阿介比)となっている。源順がカヅラ(加都良)という語についてどの程度に意識して用いたものかが問われよう。では肝心の漢名はどうかというと「鳥覆」と記されている。鳥覆子(テウフクシ)は「本草綱目」によれば通草の異名である。南人は燕覆子(エンプクシ)とも鳥覆子とも呼ぶと「本草綱目」は伝えている。

 どちらの呼称も、これがアケビの実を指していることは想像に難くない。なかなか上手い喩えを考えたものだと感じる。しかし源順がなぜ「鳥覆」に「子」を付けなかったのかは不明である。あるいは実の部分に限定しないために態(わざ)と省いたのかも知れない。だが、そう考えると今度はカヅラの有無が問題になる。いずれにしてもさらに検証を続ける必要がある。

 アケビには他にも山女という異称がある。編者不詳の「字鏡」に見える呼称だが、この辞書の完本は散佚し、いつ成立したものかも明かでない。時代は「倭名類聚鈔」より下るだろうというのが一般的である。この中に草冠に開と書く文字があり、これにもアケビ(阿介比)という訓が記され、しかも「山女也」とする漢文の注まで付いている。この異称こそ20世紀後半の日本の電子計算機の歴史に登場して物議を醸すことになった知る人ぞ知る問題の漢字の正体になるものだが、その話はまたの機会に譲りたい。(了)

  あけび熟れ裏山寂と日の移る 井戸川萋女

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