○柚子(2)--実りの秋2009/10/27

 我々はユズと言うとき、それがユズの実を指すのか、それともユズの木を指すのかということを殆ど意識しない。八百屋でユズと言えばユズの実に決まっているし、植木屋でユズと言えばユズの苗木に決まっている。いちいち断らなくても目の前にあるユズがそれに該当することは暗黙の了解となっている。
 ところが、いざこれを文字で伝えようとすると実なのか木なのかを明確にしておく必要がある。そうしなくても伝わるかも知れないが、曖昧になって誤解される可能性も出てくる。柚と柚子の差はおそらくそんなところにあるのだろう。子という漢字には実るとか実を結ぶという意味が含まれている。だから夫婦関係が実を結んでできたものを子と呼ぶのである。
 今は一人でも子供と呼んでいるが、本来は二人以上になって初めて使うことのできる言葉であった。つまり供は複数であることを示す接尾辞なのである。それがいつの間にか子と不可分の関係になって、子と子供の区別が薄れてしまった。中国のように政府が目を光らせたり音頭を取っているわけでもないのに、最近は日本でも一人っ子が大流行になってしまった。うっかり「一人っ子は子供とは呼べない」などと言おうものなら、きっと酷い目に遭うだろう。(つづく)

  美しき指の力よ柚子しぼる 粟津松彩子