◆夜の梅 臘梅(2)2010/01/21

 ロウバイの呼称については、花被が蝋細工に似た艶のある黄色の光沢を有すること、開花の時期が梅に似ていることの2点をもって、これを蝋梅とする説があり一定の説得力を持っている。だが芥川龍之介の句を引用するまでもなく、一般の表記に用いられるのは臘月の梅の意と思われる臘梅である。多くの辞書もまた、これを見出しとしている。

 臘の旁(つくり)には諸々の神を合わせ祀るの意があり、この祭を臘祭という。祭は冬至の後の第三の戌の日に行われる。臘月は臘祭が行われる月の呼称として始まったものである。ロウバイの開花もちょうどこの頃に始まる。そして高い香りを放ち始める。この植物に陰暦12月の花として臘梅の字を宛てるのも大いに頷けよう。

 列島に伝来したのは比較的新しい時代と言われ、修学院離宮の造営などで知られる後水尾天皇の頃(江戸初期)と記録されている。中国から伝わったため唐梅と呼ばれた時期もあったらしいが結局、元の呼称であるロウバイ(らふばい)が定着したようだ。


 花そのものの観察から言うなら確かに蝋梅の表記も捨てがたい。だが風流の面から見れば、いささか理が勝り過ぎて面白みを欠くようにも感じられる。もし臘月の梅とすることに異議があるなら、いっそ「朧(おぼろ)なる夜の梅」の意で朧梅としても良かったのではないか。闇に浮かぶ花の姿には、まさに夜の梅と呼ぶに相応しい趣が感じられるからである。(了)