■野党惚け--新釈国語2010/01/29

 政党や政治家が長期にわたり野党の立場におかれた結果、選挙で勝利して念願の与党側に替っても野党時代の発想や行動様式が抜けきれないことをいう。与党に転じても一向に政策立案能力が発揮されなかったり、政策の実行力という点で有権者が不安を感じ始めているとき、閣僚や党幹部がみずからの立場を弁(わきま)えない無責任な発言や行動を繰り返したり、党内でそうした発言や行動が相次ぐことを表す。

 惚けは古くは「ほけ」と呼ばれ、本来は加齢にともなう心身の老化を指す言葉だったと想像される。例えば「源氏物語」には「ほけ」の様子が「昼間は一日うつらうつらして起きているか眠っているか分からない状態なのに、夜になるとすっきり目覚めて」と記されている(明石)。これに対し現在使われている「ぼけ」は、加齢により必然的に起こる「ほけ」現象の中でも特に否定的な意味合いの強いものだけを指す言葉と言えよう。行動の鈍さ、思考力の低下、昼夜の行動の逆転など忌むべき多様な問題点を含んだ表現として、それらに似た症状を呈する人物を罵倒したり、そうした症状が見られることを軽蔑的に評する場合に用いられる。

 野党惚けの背景にあるのは政治家としての資質の問題と緊張感の不足である。野党には政権運営の直接的な権限も責任もないため、与党が準備する施策や法案の全てに対し常にその非をあげつらうことで自分たちの存在意義を発揮することができた。長い間こうした状況におかれると、なんらの責任も持つことなく評論家風に政治活動を続けることが許される。勢い野党には批判能力ばかりが長けた政治家が集まりやすくなる。与党に転じたとき政治家の多くが野党時代に身に付けた一種の習い性とも言うべき無責任な行動様式からいかに素早く抜け出せるか、速やかな頭の切り替えができるか、そのことの意味と重要性を教えてくれる言葉でもある。


 写真は植物の木瓜。同じ「ぼけ」でも中身は別物、さぞかし迷惑なことであろう。但し木瓜の実は石のように固い。