■初心忘るなかれ--新釈国語2010/01/31

 初心には二つの意味があります。一つは最初に抱いたこころざし、例えば人生や学問の目標の意です。初志とも呼ばれます。忘(わす)るはラ行四段活用の動詞です。現代風に言えば忘れるです。最初の目標を大切に胸の奥に留めて終生忘れることなく仕事に励みなさい、学問に勤(いそ)しみなさい、という意味です。


 もうひとつは芸の道に入った頃の謙虚で緊張した気持ちをいつまでも失うなの意です。これは室町時代前期の能役者で能作者としても知られる世阿弥が遺した「花鏡」に示されている「初心不可忘」の意に代表される言葉です。世阿弥は40歳を過ぎた頃から、それまでに悟り得た芸の知恵を伝えようと少しずつ、その極意とも言うべき心構えなどを書き継いでゆきました。

 ⇒http://www2.ntj.jac.go.jp/dglib/edc9/zeami/gyouseki/kakyou02_1.html 世阿弥の業績(日本芸術文化振興協会)


 世阿弥の言葉は読み下しにすれば「初心忘るべからず」です。人口に膾炙するのもこの「忘るべからず」の方でしょうが現行一般の意味としては逆で、むしろ目標の方を指していると感じます。文字に書けばどちらも同じ「初心」ですから差が分かりません。言葉を使う人に、これが何を意味するのか究めようとする気持がなければ表面的な理解だけに終ってしまうでしょう。

 学問や芸を学び始めた頃の目標と気持、初めて仕事に就いたときの気持や目標、そうしたものをいつまでも大事にできる人生を送りたかったと、晩年になって悔やむ老人は少なくありません。若い諸君にはせめて義務教育終了までに、初心には二つの意味があることを知って欲しいと願っています。


 2010年も今日で12分の1が終ることになります。月日の経つのは誠に早いものです。このブログが始まってちょうど丸1年経ちました。初心を忘れないためにも時々は初日の記事を振り返ってみる必要があります。

 ⇒http://atsso.asablo.jp/blog/2009/01/31/4093742 語義と研究者

 人生には過去もあれば未来もあります。今さら振り返っても仕方ないと思うのは過ぎ去った昔のことであって、初心をこれと同列に扱ってはなりません。初心を抱いたときは過去であっても、初心それ自体は現在とも未来とも切り離せない終生の目標です、熱い思い・謙虚な気持のはずです。初心を思い出すことは気持の若返りにも通じます。常に心の内にあって脈々と活動を続ける原動力にして欲しいものです。

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