☆熟語を読む 進捗2010/02/18

【かな】 しんちょく
【語義】 物事の進み具合やはかどり具合のこと。
【解説】 この熟語は阜(こざと)偏のチョク(陟)を使う「進陟」が本来の姿である。だが何時の頃からか表記は「進捗」が主流となり、音は「進陟」のものがそのまま生き残って使われている。捗の漢音はホだが、これをシンポと読む人は珍しく、もっぱらシンチョクが慣用されている。また厳密に言うなら字体も一部が改変されてしまった。現在行われているのは正字より1画多い俗字である。正字の旁は止の下が4画ではなく3画であって3画目のヽは打たず、すぐにノを記す。
さらに陟について云えば、この字は降(カウ)と対をなす象形文字である。降が山道をおりてくる形を足の向きで示したのに対し、陟は逆に山道をのぼる形を足の向きで示したものである。つまりシンチョクとはある目標や到達点があって、それを目指して進み昇ることを表現した言葉と云うことができる。なお日本では捗に対し「はかどる」の訓を与えているが、この文字の成り立ちを見る限りそうした意味が入り込む余地は見あたらない。本来の字義は打つである。
【用例】 平和記念都市建設事業の執行者は、その事業が速やかに完成するように努め、少なくとも六箇月ごとに、国土交通大臣にその進捗状況を報告しなければならない。(広島平和記念都市建設法)

◎言葉の詮索 暖か(2)2010/02/18



 そこで試しに「あたたか」を手元の辞書で引いてみると、次のように説明されていた。いずれも先頭部分の原義と思しき説明だけを転記し、転義などは省いている。

○広辞苑(新村出編 岩波書店 1955.5)気候や温度が暑過ぎずほどよいさま。
○大辞林(松村明編 三省堂 1988.11)暑くも寒くもなく、また熱くも冷たくもなく、肌に気持ちのよいぬくもりを感じさせる温度であるさま。あったか。

 これを見てすぐに気づくのは両者の文字数の大きな違いである。「広辞苑」の17字に対し、「大辞林」は3倍の52字を費やしている。しかしそれ以上に、両者には決定的な差がある。前者が「暑過ぎずほどよい」としているのに対し、後者が「暑くも寒くもなく、また熱くも冷たくもなく」とした点には注意が必要である。

 なぜなら後者の説明をもし妥当とすれば、秋暖や暖秋もあり得ることになってしまう。すでに述べたように秋暖も暖秋も実際には存在しない、仮想の言葉である。そうした言葉をなぜ聞くことがないのか、この説明から窺い知ることはできない。一方、前者の説明にはこうした疑問の生じる余地がほとんど残されていない。説明を「暑過ぎず」と簡潔にして、秋暖や暖秋の混じり込む余地を排している。(つづく)

  暖く乙女椿も焦げにけり 滝春一

○待ちに待った青空そして夕焼け2010/02/18

初冬から彼岸過ぎまでの四ヶ月余りをたった一日で体験したような、そんなめまぐるしく空模様の変わる一日だった。

 まず目を覚ました時、窓の外には雪が舞っていた。ところが、もう一眠りして目を覚ますと、一体どれくらい降ったのかも分からないほどに溶けてしまっていた。あの雪はもしかしたら夢の中だったのではと思うほどだった。


 夕方、散歩に出た。待ちに待った青空が広がっていた。いつもの寺に着いて見上げると、上空を飛行機が通過して行った。やっぱり青空はいい。


 いつものように石段を登り、庫裏、本堂、阿弥陀堂、釈迦堂と境内を順々に一巡りした。山の中腹まで来た時、峯の枯れ木に止まっている大きな鷹の姿を見つけた。日はだいぶ西の空に傾いていた。


 坂を下って庫裏の前に戻ると、ちょうど松の木の向こうに夕日が沈みかけていた。急いでシャッターに収め、境内を後にした。

  らちもなき春ゆふぐれの古刹出づ 下村槐太


 家路につくためもう一度山道を登ると、西の空に沈みかけた夕日の残光が厚い雲の向こうからさかんに「さようなら」と手を振っていた。明日の空模様が気になる。週末は気のあった友だちと久しぶりのハイキングを予定している。晴れて暖かくなるよう祈って、家路を急いだ。