◎季節の言葉 春昼2010/03/31

 気温の上昇が右肩上がりとなって摂氏20度を超えるか超えない頃の陽気というのは、おそらく極楽のお釈迦様の住まいに近い温度設定ではないだろうか。このとき大切なのは気温が決して20度を大きく下回らないことである。もちろん暑くなってもいけない。

 長い間寒気を経験した身体にはこれくらいの温度が続くと一気に緊張がほぐれ、何となく気だるい感じもあって時に生死の境も不明なほどに眠り込んでしまう。穏やかで、のんびりとして、しかも適度に明るくて、まさにこれが極楽かと思うほどに心地よい。朝は春眠、昼は春昼、いくら日が伸びてもこれではビジネスはできまい。


 春の昼とはこうした気分にさせてくれる陽気、気候、雰囲気を指す言葉であろう。春昼(しゅんちゅう)はそれを音読みしたものだが、これを用いた句が比較的新しいことから昭和以降に使われ始めた言葉と推測される。

 次の句は、京都に生まれ東京に出て経済界でも活躍した俳人の作品である。パリが好きになれない人にも、パリがもつ独特の気だるさや多くの日本人を惹きつけた不思議な魅力は伝わってこよう。

  春昼やセーヌ河畔の古本屋 景山筍吉