サンパ、ジョウハ、テンパ--大根日記(3)2012/09/12

 この見出しにピンと来る読者は、なかなかの教養人と言えるだろう。漢字で書けば撒播、条播、点播であり、いずれも作物の種子を「まくこと」を表している。前回、前々回の記事では種を「蒔く」と記したが、この文字に「まく」「ちらす」の意をもたせるのは日本だけである。よく知られる「種蒔く人」や「蒔かぬ種は生えぬ」のほか、工芸には「蒔絵」があって日本人には馴染みの深い文字といえる。だが、蒔植(ししょく)の例からも判るように苗の移植が本来の意味である。

 さて、先頭の撒播をサンパと読むのも実は慣用に従っていて撒の正式な音とは相違する。正式にはサッパとすべきだが、文字の印象からかサンパと読む人が多い。辞書にもこれを慣用読みとして掲載するものが多くなった。つまりはそれだけ日本人の漢字力が下がったことを示している。

 この原因は戦後の漢字「改革」にある。撒を使う人には白い目を向け、代わりに散を使うよう奨励した。こうして農業書などの記述にも散播が登場するようになった。だが散の意味は「ちる」や「ちらす」であって、種や水を「まく」ことではない。散水栓も散水車も散播も、文字を大切にする人には実にいい加減な表現と映ろう。公金を使った「文化」政策によって古い歴史をもつ言葉を次々に排除し、妙な新造語の使用を奨励した時代、これが戦後と呼ばれた時代のもう一つの姿である。

 話を元へ戻そう。撒・条・点の三文字はそれぞれ種子の「まきかた」を表している。撒はまんべんなくバラバラとまくこと、条は平行線でも引くように隣の列との間隔をとって真っ直ぐ一直線にまくこと、点は条に似ているが種と種との間隔も一定に保ちながらまくことである。JA京都・企画営農課の芦田さんの説明が分かりやすいので興味のある方にはお勧めしたい。


 芦田さんは難しい漢語の使用を止め、それぞれ「ばらまき」「スジまき」「点まき」と表現している。何より解説が丁寧で行きとどき、かつ論理的でもある。通販業者などが作る、にわか仕立てのページとは違うことがお判りいただけるだろう。


 写真は六日目の様子。箱全体に撒播(ばらまき)したつもりだが、仮に撒播が適切なまき方であったとしても合格点は取れそうにない。それに大根だから、この先どう育てるか思案に暮れるところだ。(つづく)

コメント

_ シルバー ― 2012/09/16 11:01

「日本人と言葉」のタイトルに興味を持ち、お気に入りに入れました。
”サンパ、ジョウハ、テンパ‐‐大根日記”を読ませて頂き、大変勉強になりました。
年を取っても知らないことが多く、新しい事柄を知ると驚くことが多くあります。
これからも勉強させてください。

_ たまの ― 2012/09/18 19:56

コメントをいただき恐縮いたします。
紙の編集ノートと併用しながらの作業です。
が、時々は私的な繰り言なども残しております。
いずれ時間が取れるようになったら見直すつもりです。

勘違いや調査の足りない点などをご指摘いただければ幸いです。
またいつ中断するかも知れませんが、末永くよろしくお願いいたします。

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