○木犀の香り(2)--秋色2009/10/14

 木犀は大陸から庭木として渡来したものであろうが、命名については不思議に思うことが少なくない。中国では宋(960-1279)の時代、知識人が心の赴くままに描く文人画の題材に相応しい花として10種を選び、これを持つべき10人の友にたとえたことがある。そのとき仙友にたとえられたのが、他でもないこのモクセイの花である。しかしその漢名は巌桂であって木犀ではない。
 だがモクセイが和名であるとも思えない。モクレン(木蓮・木蘭)やムクロジ(木連子・無患子)などと同様に漢字表記されたものが訛ったか、あるいはそのまま音読みされて成立した呼称であろう。そもそも木を「モク」とするのは正当な漢字音ではない。漢音の「ボク」が伝わるより早く、仏教の伝来などとともに朝鮮半島経由でもたらされた中国南方系の字音である呉音に相当している。木魚や木像などと同じ頃に伝わった言葉と考えるのが自然だ。(つづき)

  金木犀風の行手に石の塀 沢木欣一