○苔桃--実りの秋2009/10/25

 まだ若かった頃、10月は格好の登山の季節だった。週末にはあちこちの山へ出かけ、秋の味覚を収穫物として持ち帰った。近頃はそんな登山客を目当てに、山で採れたキノコなどを売る店も現れている。春にはウドやゼンマイやタラの芽を売り、秋にはヤマブドウなども売っている。海の近くに釣り人向けの地魚を売る商売があるのと同じように山間地では山菜を売る店が重宝がられている。

 ある時、甲斐と信濃の境にある山へ登り尾根の窪地で休んでいたら、急斜面の岩陰に一面を紅色に染めた場所が目に止まった。足元に注意しながら近づくと、辺りは苔桃の実で覆われていた。熊になったつもりで四つんばいになり、夢中になって摘んだ。そして苔桃酒をつくった。普段アルコールを全く口にすることのなかった時代だから、考えてみれば不思議な気がする。きっと、どこかで苔桃酒の話を聞いていたのだろう。

 最近、その苔桃によく似た木の実を目にした。半世紀ぶりの再会とはいえ、高山の苔桃にしては粒が大きすぎるし、実の付き方も異なっている。聞けばクランベリー cranverry だという。クランベリーは蔓苔桃(ツルコケモモ)などと和訳されるが、元は北米原産の蔓性植物である。ビタミンCが豊富で壊血病の予防に役立つと信じられている。しかもブリティッシュコロンビアのような寒い土地でも育つことから急速に栽培が普及し、産地は広くカナダにも及んでいる。実の色は cranberry red と呼ばれ、晩秋の大地を染める鮮やかな紅色を呈する。だが、その光景は日本人にはいささか想像しがたい風物と言えるだろう。

 ⇒http://www.usa-cranberry.com/cranberry/ 米国クランベリーマーケティング協会