◎季節の言葉 凍る・氷2010/01/25

 性悪説で知られる中国の思想家・荀子の言葉に「氷は水より出でて水よりも寒し」がある。日本では「青は藍より出でて藍より青し」ほどには知られていないが、どちらも同じ荀子の言葉である。水も氷も色気に乏しいため人々の心を打たないのか、それとも寒い日本列島では当たり前すぎて月並みの言としか心に映らないのか、その理由はよく分からない。

 ついでに言えば、氷に関する辞書の説明は極めてお粗末なものである。後からできた「大辞林」は単に「広辞苑」から引き写して、1字追加し2字削除したにすぎない。どちらも情けないほどに貧弱だ。

 水が氷点下の温度で固体状態になったもの(広辞苑)
 水が氷点以下の温度で固体になったもの(大辞林)

 そもそも普段は液体の状態にある水が温度変化の影響を受けると氷と呼ばれる固体の状態に変じることがあり、その際の液体状態と固体状態の境目になる温度が氷点と呼ばれるようになったのである。上掲の辞書はそうした背景を捨象して、いきなり氷点下とか氷点以下という言葉を持ち出している。落馬の説明にまず馬の説明から入れと要求するつもりはないが、氷の説明にのっけから氷点を持ち出すのは辞書のなんたるかを考えたことのない人士の所業であろう。(つづく)

  精出せば氷る間もなし水車 蓮之


 写真は2006年1月の諏訪湖。湖面が氷結し、御神渡りと呼ばれる白い筋の南北に横断する様子が窺える。

  ⇒http://www.city.suwa.lg.jp/web/scm/dat/special/omiwatari/ 諏訪市博物館