☆読めますか? この漢字042010/02/19

☆質
1.彼は元々口数の少ない質であったからその時も黙ったままだった。
2.うちの植木屋さんは昔気質の上に職人気質の人だから苦労させられる。
3.総理は野党側の質問に言質を取られまいと例ののらりくらりした口調で答えた。
【解説】
1.たち:人が生まれつきもっている性格や体質など。事件や事柄の性格・
性質についても用いられる。
「このところ―の悪い事件が続いている」
2.かたぎ:その人の育ち、環境、職業、時代などがその人の気風や容姿などに与える独特の傾向を云う。かつては形気や容気も用いられたが、用法の比重が容姿より気風を主とするようになって気質をあてる傾向が強くなった。
  むかしかたぎ:とかく新しいものは遠ざけ常に伝統や慣習を重んじる気風を云う。そのため律義者や頑固者と同義に扱われることも少なくない。
  しょくにんかたぎ:職人と呼ばれる人一般に見られる気風を云う。具体的には職人としての自分の技量・腕前に自信があり自分が手がけた仕事に高い誇りをもっているため、安易な妥協を嫌い、金銭面に心を動かされることが少なく、仕事の中身についても選り好みをするといった傾向が見られる。
3.げんち:和製の漢語で、言葉の質(しち)の意。後日の証拠とされるような発言、言葉上の約束を云う。一部には表記どおりの「げんしつ」も行われるが質が「しち」の意であることを踏まえ、「言葉」の省略形「言」の音の「げん」と「ち」を組合わせた「げんち」が一般的となっている。なお「―を取る」の反対は「―を与える」である。

☆熟語を読む 進捗2010/02/18

【かな】 しんちょく
【語義】 物事の進み具合やはかどり具合のこと。
【解説】 この熟語は阜(こざと)偏のチョク(陟)を使う「進陟」が本来の姿である。だが何時の頃からか表記は「進捗」が主流となり、音は「進陟」のものがそのまま生き残って使われている。捗の漢音はホだが、これをシンポと読む人は珍しく、もっぱらシンチョクが慣用されている。また厳密に言うなら字体も一部が改変されてしまった。現在行われているのは正字より1画多い俗字である。正字の旁は止の下が4画ではなく3画であって3画目のヽは打たず、すぐにノを記す。
さらに陟について云えば、この字は降(カウ)と対をなす象形文字である。降が山道をおりてくる形を足の向きで示したのに対し、陟は逆に山道をのぼる形を足の向きで示したものである。つまりシンチョクとはある目標や到達点があって、それを目指して進み昇ることを表現した言葉と云うことができる。なお日本では捗に対し「はかどる」の訓を与えているが、この文字の成り立ちを見る限りそうした意味が入り込む余地は見あたらない。本来の字義は打つである。
【用例】 平和記念都市建設事業の執行者は、その事業が速やかに完成するように努め、少なくとも六箇月ごとに、国土交通大臣にその進捗状況を報告しなければならない。(広島平和記念都市建設法)

☆読めますか? この漢字032010/02/17

☆野
1.今年の正月は閑雲野鶴を描いた墨絵の賀状が多かった。
2.運動野とか連合野は頭の中にあるもの、蓮台野は墓地のことらしい。
3.高野豆腐は豆腐を凍らせてつくるので凍み豆腐とか凍り豆腐とも呼ばれる。
【解説】
1.かんうんやかく:閑雲(カンウン)はゆったりと静かに漂う雲、野鶴(ヤカク)は野に遊ぶ野性の鶴を云う。これらは何ものにも束縛されることなく気ままに悠然と生きるさまの象徴とされ、境遇が悠々自適であることの喩えに使われる。
2.うんどうや:大脳皮質の随意運動に関係する領域を指す motor area を日本語化した言葉。野(ヤ)はある範囲を抽象的に示す語として用いられている。
  れんごうや:大脳皮質の運動野や感覚野の周辺にあって他の神経中枢と連絡を取り合っている神経中枢群 association area を日本語化した言葉。
  れんだいの:蓮台はハス(蓮)のうてな(台)のこと。蓮台が並ぶ野中の場所の意で、墓地や火葬場を指す。野(の)は野原や野中の具体的な範囲・広さを示す語として使われている。
3.こうやどうふ:元は寒中の寒さを利用して製造したが今では人工的に一年中つくられている。高野(こうや)は真言宗総本山金剛峰寺のある高野山に由来する名称と云われる。

☆熟語を読む 収斂2010/02/16

【かな】 しゅうれん
【語義】 多岐にわたる議論がひとつの方向や結論に向かってまとまりつつあること。または、そうした方向でまとまること。
【解説】 収(シウ)は漢音だが、斂(レン)は呉音。いずれもおさめる・あつめるの意があり、収斂は収穫や徴税のほか収縮の意に用いられることもある。また専門用語として医薬、数学、物理の分野でも使われている。
【用例】 米国を含む世界の急速な国際財務報告基準(IFRS)への収斂を受け、2008年にはIFRSの採用に向けた議論が金融庁企業会計審議会で開始された。(日本公認会計士協会報告)

☆読めますか? この漢字022010/02/15

☆ 野
1.麻生首相は潔く政権を民主党に譲って野に下るべきだ。
2.やはり野に置け蓮華草は格言などではなく俳句の一部だ。
3.民権論で知られる「朝野新聞」は明治26年に廃刊した。

【解説】
1.やにくだる:政権を離れること。政権を手放すこと。
2.のにおけ:自然のままにしておけ。生け花にしたり庭に植えようと思うな。自分のものにしようと思うな。
3.ちょうやしんぶん:明治7年(1874)発刊の政論新聞。主筆・末広鉄腸、社長・成島柳北。朝野は政府と民間、官民の意。

【口上】
 http://atsso.asablo.jp/blog/2010/02/12/4876518 読めますか? この言葉

☆熟語を読む 旗幟鮮明2010/02/14

【かな】 きしせんめい
【語義】 主義・主張を常に明確にすること、また議論のある問題などで立場や態度を鮮明にすること。
【解説】 旗幟は旗と幟(のぼり)。転じて主義や主張、ある事柄についての立場や態度の意にも用いられる。旗幟鮮明とは旗や幟に記された家名などが遠くからでも明瞭にくっきりと見えることを云った。現行の語義はこれが転じたものである。
【用例】 マスコミが外国人参政権の問題で旗幟を鮮明にしないのは一方で不偏不党を掲げているからだ。

【口上】 http://atsso.asablo.jp/blog/2010/02/12/4876518 読めますか? この言葉

☆読めますか? この漢字2010/02/13

☆ 細やか
1.彼女は立場の弱い人にも細やかな気配りのできる女性だ。
2.彼女は後輩のために細やかだが気の利いた品を用意した。
3.細やかは姿・形の形容だが時に声が小さく低いことにも使われる。

【解説】
1.こまやか:心配りができているさま。
2.ささやか:控えめなさま。大げさでないさま。
3.ほそやか:ほっそりしているさま。文語的だが今も使われる。

【口上】
 http://atsso.asablo.jp/blog/2010/02/12/4876518 読めますか? この言葉

☆読めますか? この言葉2010/02/12

口 上

日本語力が売り物のある大学で新入生に漢字や熟語の読み方を尋ねてみた。入学してきた学生の漢字能力をまず知ることから始めたわけだ。そこで気づいたのは、学生たちが正しく読める漢字と日常生活やビジネスで使われる漢字や熟語との間に差のあることだった。学生たちが読み書きできる言葉の大半は実社会から切り離された、受験という特殊な過程で試される範囲のものだった。そこを一歩でも外れると途端に正答率が下がってしまうことを知った。「一期一会」や「風情を楽しむ」ならどの学生も正しく読めるが、「荼毘に付す」や「進捗状況を尋ねる」となると急に正解者が減ってしまうことに気づいた。

一口に漢字能力といってもその中身は一様ではない。正しく読むことより正しい筆画できちんとした文字を書くことに力を入れた時代もある。難解な語句の混じる長めの文章を読ませ、大意や要旨を把握させることに重きを置く受験指導のような方法もある。だが現代のように日常的にパソコンを使い、文章もパソコンを使って書くことが当たり前の時代になると、とにかく日本語は耳で聞いて理解できることが基本となる。耳で聞いた音をそのままパソコンに伝え(入力し)、変換候補の中から文字の言葉として妥当なものを選び出している。この作業が適切に終了して初めて漢字と仮名の交じった普通の文章が出来上がる。もしこの全てをパソコンに委せてしまったら、まっとうな日本語の文章にはならない。

実は日本人は、これと同じことを毎日頭の中で繰り返している。そして相手の話すことを理解し、スピーカーから流れてくる音の言葉を手掛かりに風景や意味を思い浮かべている。この力を付ける基本は聴く力にある。集中力といってもよい。意思疎通にはまずこの力を付けることが欠かせない。が、それはこのコラムの目的ではない。聴く力を付けるのは幼児のうちほどやさしいが、そのためには幼児期の家庭環境から整備しなければならない。聴く力の話は別の機会に譲ることにして、ここでは聴く力の後に試される頭の中の辞書を豊かにする方法について考える。

頭の中の辞書が豊かとは、音の言葉を聞いてその音が表す文字の言葉をすぐに辞書から引き出すことができ、その意味を的確に理解できる力のあることをいう。辞書の中に言葉を音で表した部分、つまり見出しがあって、次にそれを文字で表したものがあって、さらに言葉の意味が記録されていることが最低限必要である。ついでに言葉の使い方を示した部分、つまり用例と呼ばれるものがたくさんあるほど言葉の使用能力・日本語力は高いことになる。これが頭の中につくる豊かな辞書の理想である。

頭の中にこうした辞書を築くコツは、実際の辞書を片手に文学作品などを努めてたくさん読むことに尽きる。その積み重ねが頭の辞書を豊かにし日本語力を向上させるのだが、このコラムなどで毎日練習を続けることもあながち無駄では無かろう。よく目に付く漢字、使用頻度の高い熟語を選んで、2つのタイトルでお届けする。

 ☆読めますか? この漢字
 ☆熟語を読む ▽△

どこまで続くものかとんと分からぬが、読めない漢字や使い分けが必要な漢字の存在に気づくために、正しく使える漢字や熟語を増やす精進のひとつとして、お使いいただければ幸いである。

  2010年2月12日        木多・まさと

http://atsso.asablo.jp/blog/2009/11/02/4669831 旗幟鮮明(1)

◆履霜堅氷至 気の早い話2010/02/08



 先月、白梅日記の中でシェリーの詩について紹介した。例の「冬来たりなば春遠からじ」の句が出てくる詩のことだが、寒の季節が開け立春も過ぎたというのに日本列島は各地で大雪や地吹雪に見舞われ雪崩の被害も出ている。心は暦に期待しても、日々の気象は冷厳な自然界の法則に従って変化するのみだ。決して我々の期待を優先することはない。

 そう思っているとき、秋から冬に至る季節の移り変わりを表した警句を見つけた。今度は英詩ではなく、中国周代の占いを集める易経に記された言葉だ。春から夏を通り越してしまい、いささか気の早い話にはなるが忘れないうちに紹介しておこう。

  履霜堅氷至(霜を履みて堅氷至る)

 堅氷は堅い氷の意。堅い氷の張る寒く冷たい真冬の季節が到来することを表している。履霜は、そうした季節の前には必ず寒さの訪れを予測させる霜の降りる時期があるものだ、霜を踏んだらそれが寒い冬の予兆であることに思いを致さなければいけないの意である。堅き氷は霜を履むより至る、と訓んだ書もある。全体として大事の前の小事を見逃すなの意とされる。いずれにしても冬が来て絶望するのも愚だし、霜が降りたくらいで騒ぎ立てても仕方がないという気もする。

 ⇒http://atsso.asablo.jp/blog/2010/02/01/4850612 季節の言葉 凍る・氷(2)

 だが寒い冬の到来と秋の霜との間には大きな差がある。冬なら春の到来までに長くても3ヵ月の辛抱で済むが、霜の場合は春の到来まで4ヵ月も5ヵ月も寒い季節を耐え抜かなければならない。耐える時間の長さに開きがある。それくらいは知っておいてよいだろう。換言すれば春が近いと浮かれていると半年後には必ず秋が来るのだぞ、その時に十分な備えがないとその先の季節は到底乗り切れないぞ、と教えているのである。


◎季節の言葉 凍る・氷(2)2010/02/01

 漢字の偏である三水は池、河、波、沖、汁など水に縁のある文字の構成要素に使われている。沈、没、汚、治のように水とは一見無縁と思われる文字も字書を引けば水との関係を知ることができる。

 氷が水の凍ったものであることは多くの人が知っている。凍るという文字の偏である冫は一般に二水と呼ばれているが、「ヒョウ」という漢音をもつ漢字でもある。冫は元は「人」を縦にふたつ重ねて書き、水が凍り始めたときのさまを表したものだと言われる。つまり氷は「冫+水」と記すことで、水が凍ったさまを示している。


 日本列島の先人たちは、当時が今より寒かったせいかどうかは知らぬが、凍るとか氷というものに対して現代人より遙かに細やかな観察をしていた。その名残が「ひ」と「こほり」の使い分けである。まず「万葉集」の恋の歌から紹介しよう。冬の凍てつく夜の待ち合わせを詠ったものだが、ついに相手は姿を見せることがなかった。

 我が背子は待てど来まさず雁が音も響(とよ)みて寒しぬばたまの夜も更けにけりさ夜更くとあらしの吹けば立ち待つに我が衣手に置く霜も氷(ひ)にさえわたり降る雪も凍りわたりぬ今さらに君来まさめやさな葛後も逢はむと大船の思ひ頼めどうつつには君には逢はず夢にだに逢ふと見えこそ天の足り夜に(万葉集・3281)

 霜は「氷にさえわたり」、降る雪は「凍りわたりぬ」と使い分けている。これは長時間、戸外で立って待っていたので衣の上に霜がおり、それががちがちに氷って氷(ひ)のような固まりになったという意味である。また、その間に雪も降ってきて、その雪が厳しい寒気に触れて表面が凍り始めたと歌っているのである。ひたすら待ち続ける心情、その哀れさがひしひしと伝わってきて切ない。


 また「源氏物語・蜻蛉」にも、この「ひ」が登場し、薫と小宰相の君の夫婦仲を示す小道具として使われている。「氷をものの蓋に置きて割る」「手に氷を持ちながらかく争ふ」「氷召して人びとに割らせたまふ」と「ひ」を割って遊ぶ様子が描かれている。この場合の「ひ」は冬のうちに氷を池などから切り出して氷室(ひむろ)に入れて貯蔵し、夏の暑いときに取り出して貴族の涼みの用に供したものを指している。池の表面に厚く張った氷も貯蔵時間の経過と気温の上昇とによってやせ細り、夏には人が割って楽しむくらいに薄くなってしまったようだ。(了)