○露草(4)--野の花々2009/08/09

 露草の花汁を摺り付けた衣の色は綺麗でも水に濡らすと色落ちする。時間が経てば褪(あ)せてしまう。そんな評判が拡がるにつれ、この植物は元々花の命が短いこともあって、人の心の変りやすさ・移ろいやすさを象徴する代名詞となってゆく。
 万葉の時代から250年ほど経た平安時代の中頃、紫式部は「源氏物語」総角(あげまき)の中でこの植物を巧みに利用している。光源氏の孫にあたり色好みの性格を受け継いだと評判の高い匂宮(におうのみや)について「なほ音に聞く月草の色なる御心なりけり」と、その心を露草の色にたとえて紹介した。
 露草はさらに「古今和歌集」にも顔を出すが、うちひとつは「うつし心」に掛かる枕詞としての役割に転じている。この植物名が広く日本文学の中に普及定着したことを示す出来事と言えるだろう。(つづく)

  いで人は事のみぞよき月草のうつし心は色ことにして 不知詠人

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