◆忘れてはいけないこと2009/09/01

 一昨日行われた第45回衆議院総選挙の結果について、まだ記憶が新しいうちに今後の課題などを記しておこうと思います。明日から5日まで、晩夏・初秋の花の写真も添える予定です。
 なお今日の写真はナツズイセン(夏水仙)です。中国が原産と言われ、多くは園芸用に栽培されています。命名は盛夏に咲き、立ち姿が水仙に似ているからでしょう。有毒性の植物としても知られています。花の形も色も、言われてみれば確かに一癖ありそうな植物です。

目次(予定):
(1)日本の政治風土 ※センニンソウ
(2)官僚の知恵と手法 ※サルスベリ
(3)政権交代の意味 ※スイフヨウ
(4)マニフェストの役割 ※ムラサキシキブ

○台風一過--実りの秋2009/09/01

 幸い台風11号は房総半島東の沖合を通り過ぎてゆきました。一時はハラハラさせられましたが、これでもうしばらく好天が続けば何とか例年並みの作柄(さくがら)を期待できそうです。心配なのは収穫量より味の方かも知れません。梅雨明けの遅れが穂の出る時期までずれ込み、これが味の形成にどう影響するか気になります。
 ところで作柄という熟語は漢字の音訓という視点で眺めると原則から外れた不規則な読み方をしています。最初が音読み、次が訓読みです。作は作物あるいは農作物の意です。これに対して柄は作物の出来具合を示す接尾語の役目を果たしています。事柄、時節柄、商売柄、あるいは「柄にもないことをした」「柄が悪い」などというときの「がら」と同じ和語です。様子・状態、性質、能力など見た目や見た目の裏にあるものを表すときに用いられます。
 次の句は今から100年以上前の20世紀初め、明治30年代の早い時期に子規が詠んだものです。当時は上野の森を水源とする田圃が根岸辺りにもあって、子規庵からも望むことができたのでしょう。東京の地図を開くと今も早稲田など稲作に関係の深い地名を見つけることができて嬉しくなります。

  雨含む上野の森や稲日和 子規

◆日本の政治風土2009/09/02

忘れてはいけないこと(1)

 民主党など野党3党による政権交代が現実のものとなりました。暴力や武力に頼ることなく選挙という民主的な手段によって現政権に退場を命じたのです。私たちの国は経済的には先進国と言われながら、政治的には世界の大勢から遅れた大変後進的な国でした。狭い島国の中で助け合い肩を寄せ合って辛抱強く生きてきたが故の国民性が、いつの間にか大きな変化を望まない方向へと人々の意識を固定させてしまったのでしょう。
 今から141年ほど前の明治維新によって誕生した薩長土肥(鹿児島、山口、高知、佐賀)を中心とする勢力は、自分たちの生活と権益をどこまでも守り通す頑強な官僚組織を東京の霞ヶ関を根城につくりあげてきました。余談ですが、上記4県の今回の選挙結果を眺めると奇妙な符合のあることに気づきます。一度習い性となったものを変えるのは容易なことではありません。それが風土であり気質です。県民性などと呼ばれることもあります。今回の選挙は図らずも、それぞれの地域と霞ヶ関との距離を示す結果にもなったようです。(つづく)

 写真はセンニンソウと呼ばれる蔓性の植物です。節ごとに幾つもの花を付け群がって咲きます。鼻を近づけると、よい匂いがします。学名をクレマチス・テルニフローラ(Clematis terniflora)というそうです。秋、その種子を見ると「なるほどクレマチスの仲間だ」と納得します。

○稲の花--実りの秋2009/09/02

 最近は米を食べない日本人も多いと聞く。いずれ「御飯ですよ」は廃(すた)れ、「お食事ですよ」に代わるのだろうか。思い起こせば子どもの頃、学校では盛んに「日本人は木と紙の家に住んでいるから火事が多い」「米食だから脚気が多い」と繰り返し教わった。給食の時間には米国支給の援助物資である脱脂粉乳を飲まされ、コッペパンを食べさせられた。
 考えてみれば給食とは妙な言葉である。御飯なら家から弁当箱に詰めて持参できたし、たとえおかずがなくても、たくわんか梅干しだけでも十分に美味しく食べられた。にもかかわらず無理やり幾ばくかの給食費を徴収され、そのあげくに不味いものを飲まされ食べされられるのだ。現金が乏しい農家の子供にとって、これほど理不尽なことはないと感じた。
 脱脂粉乳を溶かしたミルクの味は実に酷いものだった。それでも無理に飲まされた。仕方がないので、いつも吐きそうになるのを必死にこらえ、時間をかけて飲み込んだ。そのためか、食べるのが遅いと教師によく叱られた。コッペパンの味も酷いものだった。それを誤魔化すためか時々ジャムが薄く塗られていることもあった。
 しかしこうした給食が日本の子供達を将来の米国農業の消費者に育てるための周到な計画の一部だ、と教えてくれる教師はいなかった。政治家が何と言っていたかは知らないが「敗戦国の子供だから食べられるだけでも有難く思え」くらいの思し召しで政治が行われていたのではないだろうか。家に帰れば田圃も畑もあることが誇らしかった。これさえ耕していれば食べ物に困ることも無理に不味いものを食べさせられることもない、と強く思った。

  擂鉢の底の山科稲の花 佐田あはみ

◆官僚の知恵と手法2009/09/03

忘れてはいけないこと(2)

 さて官僚は政党政治が始まると今度は、政治家を隠れ蓑にする方法を編み出しました。軍部が台頭したときは彼等と一緒に美味い汁を吸うことも覚えました。戦争に負けてからの暫くは復興に精を出した時期もありますが、経済成長が確実になると保守政治家と手を携え二人三脚で税金の配分に熱を上げてきました。その手法を政治家に教えたのも官僚です。これはと思う政治家に近づき、「先生の地元に予算を付けておきました」と耳元で囁くのです。右肩上がりの経済成長が続く時代は何をやっても借金を増やす心配はなく、もちろんばれることもありませんでした。何もしなくても税収は増えました。そして、いつどんなときでも自分たちの取り分だけは忘れずに確保するのが官僚の流儀です。
 時にまっとうな政治家が現れて口出しされても何のかんのと口実を設け、目立ちにくいところに法の抜け穴を準備してきました。法律の制定や改正には国会の審議が必要です。そこで法律はなるべく抽象的な表現に止めることにしました。こうしておけば言い訳に苦労することもありません。何より細部は常に、自分たちの都合で決めることができます。これが省令とか施行規則と呼ばれるものの正体です。省令でも都合の悪いときは証拠を遺さないように、窓口での口頭対応で切り抜けます。これが行政指導と呼ばれるものです。こうした仕組みは地方官僚にも真似をされ、都道府県庁から村役場まで日本の公務員が税金を食い物にする共通の手法になってしまいました。(つづく)

 写真はサルスベリの花です。サルスベリは漢名を百日紅(ひゃくじつこう)といいます。この植物については改めて紹介する予定です。

○オクラ(1)--夏野菜2009/09/03

 近所の石山さんの畑にはオクラの畝がずらりと並ぶ場所がある。この春に「大根の味」で紹介した主婦が耕す、広い畑のことである。この場所が7月の中旬頃から午前中だけ急に華やかになった。待宵草のような黄色の花が、ご主人が出勤する頃から急に咲き始めるのである。早朝はまだ閉じていて、しかも不思議なことに午後になるとまた閉じてしまう。だから多分ご主人は、この花のことは知らないだろう。

 閉じた花は遠くからは白い点くらいにしか見えない。だが、その白っぽいとんがり帽子のような花びらの下で小さなオクラの赤ちゃんが育ち始めている。そしてオクラが育つと、とんがり帽子は落ちてしまう。育ち始めたオクラの成長は早く、あっという間に10センチを超える長さとなる。

 この大きなオクラを石山さんは20本も袋に詰めて週2回、100円で分けてくれる。その日が近づくと曜日を間違えないように早く寝て早く起き、散歩の帰りに石山さんの畑へ寄って戴いて帰る。たいてい胡瓜に茄子にトマトに獅子唐と、他の夏野菜も加わるから帰りの荷物は結構な重さである。腕の鍛錬だと思って右と左と時々持ち替えながら家路につくが、欲張った日は肩が凝る。(つづく)

 ⇒http://atsso.asablo.jp/blog/2009/03/08/ 大根の味(2)

◆政権交代の意味2009/09/04

忘れてはいけないこと(3)

 これらのやり方を変え官僚など一般公務員の都合ではなく、税金を払う側の都合や希望に添うよう改めることが本当の政権交代です。だから勝利の美酒に酔いしれた人も、思わず小躍りして喜んだ人も、決して有頂天になってはいられないのです。新内閣ができれば、すぐに来年度予算の本格的な編成を始めなければなりません。今年度予算の凍結や見直しも必要になるでしょう。それらの作業がどんな手順で行われるか、そのとき誰がどんな抵抗をするかよく見ておくことが大切です。サボタージュ(表向きはじっくりと念入りに時間をかけ非常に慎重に丁寧に仕事をしているように見せかけること)にかけては筋金入りの強者揃いです。随所でこうした特技を発揮し、裏技を駆使して抵抗することでしょう。そうした行為を余さず見抜き、それが国民に対する背信行為だということを知らしめなければなりません。全てを新しい政権与党に委せ、監視はマスコミに委せてテレビの前に座っているだけでは官僚や落選した政治家達の思う壺です。
 事実は小説より奇なりと言いますが、戦国ドラマや赤穂浪士の物語に負けない新与党の政治家達と官僚達の鬩(せめぎ)ぎ合い・葛藤が始まるはずです。これまでのドラマと違うのは、その帰趨や勝敗が生活に直接跳ね返ってくることです。貴重な一票をマスコミの玩具(おもちゃ)にされた人も、普段テレビの視聴率稼ぎに踊らされている人も、今度ばかりは自分の生活がかかっていることを思い起こす必要があります。「一度やらせてみよう」などという思い上がりで眺めていると、まんまと出し抜かれてしまいます。誰が出し抜こうとするか、どんな手を使うか、それが官僚なのか、財界なのか、これまでの政権党なのか、それとも新しい政権党の誰かか、マスコミはどんな目潰しを使うか、よくよく見極め、必要な後押しをすることはもちろん、次の選挙に向けてしっかり覚えておく必要があります。そこまでして初めて政権交代が私たちの暮らしに近づいてくるのです。(つづく)

 写真はスイフヨウの花です。前に紹介したムクゲの仲間です。いずれも晩夏から初秋を彩る秋の花で、夜明けとともに咲き出し一日で萎んでしまう点も共通しています。異なるのは、スイフヨウが刻々と色を変えてゆくことです。翌日目にするのは、前夜のうちに紅色に染まり萎んでしまった哀れな姿です。朝方は純白に近く、徐々に紅色が現れてくるから不思議です。写真の花の撮影時刻は午前11時09分です。画面の右上に小さく半分だけ写っている紅色が前日の花です。なお朝方の撮影分は明後日6日に「朝のスイフヨウ」と題してお目にかける予定です。お楽しみに。

 ⇒http://atsso.asablo.jp/blog/2009/07/27/ 木槿
 ⇒http://atsso.asablo.jp/blog/2009/07/28/ 槿花と木槿
 ⇒http://atsso.asablo.jp/blog/2009/07/30/ 無垢の花
 ⇒http://atsso.asablo.jp/blog/2009/07/31/ 木槿花びっくり

○オクラ(2)--夏野菜2009/09/05

 オクラという植物の正体には不明な点が少なくない。辞書によって記述の異なることもあれば、誤りか誤りに近い記述も見られる。せめて花が咲き出す時間くらいは自分の目で確かめてから記録して欲しいものだ。それはさておき、初めてこの呼称を耳にしたとき、いったいどんな漢字を当てるのだろうとまず考えた。だが「オクラ」が英語を話す人々の間で使われる okra を仮名に置き換えただけの呼称と分かり、がっかりした。オクラはいかにも日本人が好みそうな和風の言葉であったからだ。

 とは言え、オクラの歴史も決して単純ではない。まず okra は一種の発音記号だから例えば米国と英国では異なって発音され決して一様ではない。オォクラもあればアクラもある。原産地がどこであるかも実はよく分かっていない。だがこれを好んで食べる人々やそうした人々が多く暮らす地域をたどると、北米地域への伝来は奴隷貿易の頃であり、西アフリカ辺りからもたらされたものだろうとの推測が成り立つ。しかしそこが原産地かどうかははっきりしない。

 日本にいつどこから伝わったのかも明確ではない。オクラの異称とされる「アメリカねり」を手掛かりにしてよいなら開国後の幕末か明治の頃に米国からと見るのが一般的だろう。同様の例はほかにも「アメリカぼうふう」などが知られる。では、もうひとつの異称「ガムボ」の場合はどうだろうか。これもどうやら米国の一部とカリブ海沿岸地域で使われる gumbo を仮名に置き換えた呼称と思われる。

 オクラも決して米国内で広く知られる言葉ではないが、ガムボの場合はもっと少数派になる。この語の起源はポルトガル語の quingombo が訛ったとする説が有力だ。もしそうだとすると、このポルトガル語は東アフリカ辺りで quillobo と呼ばれている植物が訛ってできた言葉だから、オクラの起源もその辺りまで遡ることが可能かも知れない。このように比較的新しいと思われる言葉でも、その起源を探すのは生やさしいことではない。

 今日の写真を見ていると何となく米国のオバマ大統領を彷彿とさせるところがあって、益々石山さんのオクラが好きになる。栄養豊富で廉価で、庶民向きの野菜だと思う。

◆マニフェストの役割2009/09/05

忘れてはいけないこと(4)

 今回の政権交代によって私たちの暮らしが少しでも良い方向へと向かうためには、まだまだ忘れてはいけないことがあります。民主党のマニフェストをしっかりと手元に保存しておくこともそのひとつです。そんなものインターネットを開けばいつでも見られるよ、などと思ってはなりません。本当に民主党を信じてよいだろうかと迷っている人なら、なおさら注意したい点です。インターネット上の情報ほど危ういものはありません。手で触れ、いつでも開くことのできる冊子の形で必ず保存しておきましょう。
 その上で、政権党内での活発な議論と政党としての規律ある行動との調和にも注目しましょう。一から十まで全部の政策に合格点を付けることは現実には難しい問題が出てくるはずです。しかしどんな場合でも常に普通の人の目線に立ち、国民の利益や生活を第一に考え、悩み、学びながら行動してくれるか見守りましょう。そして今回の選択が不味かった、失敗だと思ったら来年の参議院議員選挙では忘れずに他の政党に投票しましょう。
 そのためにも、自民党が前回総選挙で示した郵政民営化のマニフェストをきちんと総括して国民に公表できるか、こちらも忘れずに見ておく必要があります。総括なしでいくら出直しだけ叫んでも、もう同じ手には騙されません。また自民党の視線がマスコミだけに向けられていないか、真っ直ぐ国民全体を見ようとしているか見極める必要があります。なぜなら、もし民主党が明らかに公約違反と思われるような行為を国民に無断で行ったり、不十分な説明のみで繰り返すようなことがあったら次の政権交代を考えなければならないからです。そのとき自民党が現状と大差ない無責任な政党のままだったら困ってしまいます。何を反省し、何をどう改めようとするかマスコミ委せの視点ではなく、自分達の目でしっかりと見ておくことがどうしても必要です。(了)

 写真は色づき始めたムラサキシキブの実です。手前が枝の先、奥に小さく見えるのが根元に近い方です。撮影時の都合で枝の先から逆方向に撮したので、枝の先から色づくように見えますが実際はその反対です。

■解党的出直し--新釈国語2009/09/06

 選挙で大敗北を喫した政党が組織としての生き残りをかけて一からやりなおすつもりで再出発を図ること。厳密には党員が従来のしがらみを捨て去って、みずからの政治理念・政治的主張について披瀝しあい、引き続き同じ党に集うことの意義を確認するとともに、採るべき政策の是非や党運営のあり方などについて一から検討しなおし、選挙敗北の総括も遺漏なく行って、それらの内容を党外にも包み隠さず全て公表した上で党首を選ぶなど、組織としての陣容を整えなおして再び政党活動を始めることをいう。組織としての連続性が維持されるため「解党して出直す」とは呼ばないものの、見せかけだけの解党風出直しとは雲泥の差がある。こうした場面に遭遇したとき有権者はマスコミ報道などに踊らされることなく、みずからの目で慎重に政党出直しの実相を見極める必要がある。