○雀除け--実りの秋2009/09/25

 稲雀(いなすずめ)という季語があります。稲穂が垂れる季節になると雀がどこからともなく田圃に集まって、せっかく実った稲穂を食い荒らします。鳴子は、そうした雀の群れを追い散らすための工夫でした。田舎の雀には悪童という天敵もいました。油断しようものなら忽ち誘(おび)き寄せられ、一網打尽にされてしまいました。

 しかし平成の御代の雀たちは手厚い法律に守られています。法を無視する悪童も、雀を驚かそうとする悪童も滅多にいません。加えて都会に近い田圃は年々減るばかりです。一方、雀の数は増すばかりです。各地に雀のお宿ができています。村はずれの竹藪どころか、駅前の街路樹までがお宿に化しています。夕暮れ時の喧(かまびす)しき様を御覧になった方も多いことでしょう。糞害も馬鹿になりません。

 もっと困るのが徳さんのような篤農家のお百姓さんです。都会の雀も村の雀も、この季節になると山を越え川を越え、大挙して押し寄せてきます。周りに住宅があるので空砲や花火で追い散らすことも叶いません。そこで仕方なく、田圃の上に網を張り巡らすことにしました。これがまた大変な重労働です。田圃全体を1枚で覆い尽くすような大きな網はありません。所々繋ぎながら数日をかけて、ようやく作業を終えました。

 今のところ雀の被害は一日だけだった様子です。食料を自給するということは、まさに食うか食われるかの仕事なのです。NPOだか動物愛護だか環境省だかは知りませんが、自分の手を汚すことなく、机に向かって頭の中だけで考えている人には全く思いも及ばないことでしょう。こうした苦労の末に、お茶碗の白い御飯はつくられているのです。

  稲すゞめちり行藪や月の雲 土芳

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