◎言葉の詮索 季節外れ 42010/01/30

 一方、果実の場合は栽培技術が向上しても精々出荷の時期を早めるだけの促成栽培程度に止まっている。大規模な温室を建設して保温栽培に取り組み、商品の季節を若干でも早めることによって、そこに付加価値を見いだそうとする戦略である。大量に出回る前のまだ珍しい時季に、いわゆる早生(わせ)として出荷することで価格の上昇や安定を図ろうとしている。


 果実にはもうひとつ、出荷の時期をわざと遅らせることで味のバランスを整えたり、季節外れを演出する方法がある。前者の例でよく知られるのは伊予柑や和歌山県下津の「蔵出しみかん」だろう。冷暗所などに保管することで過剰な酸味が抜け、ほどよい甘さの商品に仕上げることができるし、時間の経過は出盛り期の回避にも貢献する。

 ⇒http://atsso.asablo.jp/blog/2009/02/12/4114353 伊予柑の謎
 ⇒http://www.ja-nagamine.or.jp/mikan.html 蔵出しみかん(JAながみね)


 しかし柿の場合はたとえ冷暗所に貯蔵したとしても熟成が進んで身が柔らかくなり、元のままの固い柿を維持することは難しい。そこで窒素ガスなどを封入した小袋に柿の実を詰め専用冷蔵庫に入れて越年させる新しい技術が開発された。この方法を利用すれば果実の熟成が抑えられるため、翌春2月頃まで柿の実の固さはほぼ収穫時のままに維持される。通常は一つの袋に2個の柿を入れるため、いったん封を開けたら二つとも食べてしまうことが理想だ。そうしないと一気に熟成が進み、残った柿はたちまち柔らかくなってしまう。


 柿の実は日本の農村の秋の風物詩にもなっている。昔から日本人には馴染みの深い誰もが口にできる食べ物である。そのためかリンゴやミカンほどには商品化が進まず、高付加価値化を図る工夫も一部の富有柿の産地に止まっている。今のところは季節外れの珍しさだけが際だつが、もし多くの産地で参入が始まればたちまち珍しさは失せ、晩秋の柿そのものの季節感も怪しくなろう。こうした点を肝に銘じ節度ある生産が続けられることを祈りたい。(了)

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