◎季節の言葉 初花2010/03/25

 一般語としての初花には幾つもの意味がある。まず、ある植物が初めて咲かせた花の意。次に、その季節の先頭を切って咲く花。そして、花が広く桜の意として用いられるようになると、その年最初に咲いた桜の花もこれに加わった。ほかにも花を娘に擬(なぞら)えて初潮に喩えたり、初潮をみた女子の意に用いることもある。


 俳句の季題としては桜前線の北上にともなって各地で開かれる3~4月の句会の格好のテーマと云えよう。だが近年、河津桜を始めとして多くの早咲きの桜が知られるようになり、その報道合戦も盛んになって些か初花のもつ初々しい印象は後退した感がある。加えてこの語に相応しいのはやはりソメイヨシノに代表されるような薄紅色がほんのりと感じられる可憐な白い花びらの桜であって、決して寒緋桜系の緋色の花びらではない。


 また言葉のもつ印象として一気に咲き揃ったさまよりも、ほんの数輪があちらの枝こちらの枝と控えめに咲き出す頃の様子が似合っている。次の句はこうした初花の頃に早くも始まる観光地の雑踏を詠んだものである。陽気がよくなり、桜よりも桜の便りを待ちかねた人々が一気に街へと繰り出した様子が表現されている。

  はつ花や大仏みちの人通り 久保田万太郎