◆夜の梅 臘梅2010/01/19

 もう半世紀近くも前の話である。毎年、年の瀬が近づくと友人は母親に頼まれた御歳暮の手続きをするために田町から都電に乗り赤坂見附まで出かけた。目指したのは交差点を左に曲がって暫く坂を上ったところに店を構える名代の和菓子舗である。友人はここで、津軽にある何軒もの親戚のためにいつもの大きな羊羹を注文し、発送してもらっていた。同伴したのは大金を預かる友人を無事に店まで送り届けるためである。

 中には1キロを優に超えるあの大棹羊羹を2本も贈られる家があって、他人事ながら何人家族だろうかとか何日かけて消費するのだろうと要らぬ心配もしたことを覚えている。前置きが長くなったが、この羊羹の名を「夜の梅」という。知る人ぞ知る羊羹の王様ではないだろうか。

 こんな昔のことを思い出したのは数日前の黄昏どき近道をするつもりで、普段は足を入れることのない小路を抜けようとたまたま通りかかった家の前にほの白く咲くものを見つけ、これを白梅の開花と勘違いしたからである。ところが今日もう一度その小路を通ってみると、何のことはない夜の梅の正体はロウバイであった。夕闇がロウバイの薄黄色を白梅に見せたのである。(つづく)


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