◎大根・おほね 時代と言葉022010/01/24

 ダイコンは庶民には馴染みの深い野菜である。だが、その由来については必ずしも明確ではない。中国を経て伝わったという説にしても、伝わったものと現在の品種との関係がある程度明確でなければ俄(にわか)に信じることはできない。最近は説明責任などという言葉が新聞でも放送でもインターネットでもまるで当たり前のことのように使われたり主張されたりしているが、その同じメディアに、どう見ても説明責任を果たしているとは言い難い怪しげな語源説明が溢れている。


 これに対し「おほね」という大和言葉に中国渡来の漢字から「大」と「根」を選んで宛てていたものが定着し、後に音読みされるようになって「ダイコン」に変じたという説にはそれなりの説得力がある。しかしそれでも、渡来したダイコンと「おほね」の関係については相変わらず不明のままである。それどころか日本列島にも古くからダイコンの原種に近いものが存在していたのではないかとさえ思われてくる。


 大和言葉の「おほ」とは数・量・質の多いこと、すぐれていることが原義である。おほうみ(大海)、おほぢ(大路)、おほづつ(大筒)などがこの例に当たる。但しこの場合でも大筒が意味するものは時代により異なっている。かつては孟宗竹などを伐って作った酒器を指す言葉であったが、後に大砲が登場すると専らこれを指す言葉に変わってゆく。時代が変化する中で言葉の示す範囲が押し広げられ、やがて指し示す対象までが入れ替わってしまったのである。


 同じことが「おほね」でも起きていないという保証はない。万葉仮名で「於保禰」と記されるものが、古代にあって常に同一の事物を指していたと安易に考えるのは疑問である。その「ね」が食用植物の根でなくても大きくて立派であれば「おほね」だろうし、木々の根っこだって大きなものは「おほね」と呼ばれただろう。この語を現代のダイコンに通じる野菜と結びつけるためには、まだ幾つも大事な作業が残っているのである。

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