新社会人に贈る言葉042009/04/07

 《仕事は盗んで覚えろ》

 若い皆さんは「盗む」という言葉に対して抵抗感や嫌悪感を覚えるようです。そうした潔癖さは一面では好ましいことでもあるのですが、言葉のせいで一番肝腎なことが伝わらないとしたら困ります。今日は前回までのおさらいも兼ねて、なぜ「盗む」のか、「教わる」ではダメなのか説明しましょう。
 昨日までの3回の中で伝えたかったのは、皆さんはすでに社会人としての一歩を踏み出しているということです。踏み出した分はもう過去であり、それを取り戻すことはできません。それよりも前を見て、過去の失敗を繰り返さないよう決意すべきです。それが賢い生き方です。しかしそうしていても、気がつけば、あっという間に40年が経ってしまうのです。そして40年間どう生きたのか、何をしていたのかと白髪頭を掻きながら嘆くことになるのです。
 毎月給料がもらえる間に、何とか自分の特技を身につけるよう心掛けましょう。そうすれば必ず、その先に続く長い人生を様々な面で支えてくれます。経済的にも精神的にも社会的にも家庭的にも大きな力となって人生を豊かにしてくれます。
 先輩の優れた仕事を盗んで覚えることは特技を身につけるためのコツであり、その第一歩です。教わろうとする受け身の姿勢でつかめるのは精々、教えてもらった範囲の事柄です。何を教えてもらえなかったのかまで考える余裕はありません。だからそれを知ることも、つかみ取ることもできません。常に盗んでやるぞという強い気構えで仕事に臨んでこそ見えないものも見えてくるし、教わらないことにも気がつくのです。単に仕事を教わっているだけでは、将来の特技など夢のまた夢だと思ってください。

春さらば(2)2009/04/07

まだ、お花見気分…。
 言葉の意味を調べるとき古語辞典で「さらば」を引くと、「然らば」が出てきます。多くの人が「そうか桜も終わりか」と考えるのは、この言葉(別れるときの挨拶「さようなら」に相当する語)の影響があるからです。しかし「春さらば」は、これとは関係ありません。もし辞書を引くなら終止形の「さる」を探します。「さらば」はその未然形に助詞の「ば」が付いたものです。未然形は事態がまだ起きていないことを示す役割を担っていますが、まだ起きていないが起こるであろう事柄への憧れや期待感を示すときにも使われます。
 元々「さる」は時間が経つにしたがって(話し手の意思に関係なく)物の状態が変わってゆくことを表す言葉でした。移ろう、と言い換えてもよいでしょう。主に時の移ろいや色の変化を示す言葉として使われました。色の例では雨による桜の花の色あせを薄情さに掛けた「雨降れば 色さりやすき 花桜 薄き心を 我が思はなくに」(貫之集)がよく知られています。
 このように「さらば」は、これから移りめぐってくることも、移り去ってしまうことも、どちらにも使える表現でした。だから春だけでなく他の季節にも朝や昼や晩にも自由に使うことができたのですが、万葉集における用例を確かめると実際には秋が7首、春が5首、夕が4首でした。うち1首は「秋さらば 黄葉の時に 春さらば 花の盛りに」と、 秋と春の両方に関係するものです。