○木犀の香り(1)--秋色2009/10/11

 いつであったか古刹の脇を歩いていたら塀の向こうから大きな話し声が聞こえてきた。見上げると塀の上に、手ぬぐいをかぶった若者の肩から上が見えた。どうやら職人が二人、庭木の手入れをしている様子だった。文化の日の休日でも働くのかと感心しながら通り過ぎた。

「先輩、この木は何ですか」
「ああ、キンモクセイだよ」
「えー、あのトイレの香りのする奴ですか」

 この会話には恐れ入った、当節の若者は木犀の香りをそんな風に覚えるのかと。以来、10月の声を聞き、木犀の香りがどこからともなく漂う季節になると、決まって思い出し独り苦笑する。この香りが漂う頃、日暮れの時刻はさらに早まる。秋の深まりを強く感じる花でもある。(つづく)

  木犀の匂ふ見知らぬ町歩き 新田久子