黄砂と黄沙(4)2009/03/22

 日本で「沙漠」の使用が廃れた理由はこれだけのことである。しかしこれだけではあっても、漢字制限政策は後の「常用漢字表」にもしっかりと受け継がれ、日本人の漢字能力やその文化水準に計り知れない影響を与え続けている。彼の童謡を「月の砂漠」と信じて疑わない人がどんなに多いかを知れば、この政策が能率の向上には役立っても決して文化水準を高めてはいないことに気づくだろう。
 それにしても政府による漢字制限政策は戦後突然始まったものではない。その根っこは武家政権末期の幕末まで遡れるほど古い。戦前にも上述の「常用漢字表」と同名のものが存在し何度か改定も行われている。漢字の使い方で見る限り、昭和や平成生まれの日本人の方が明治や大正生まれの人々より政府の政策に従順と言えよう。
 最近は研究が進み、日本列島に飛来する砂塵の中に砂漠には存在しない発癌性物質などの混じることが分かってきた。研究者の間では「中国の黄沙と日本の黄砂」(沙漠研究・2003.6)というような使い分けも始まっている。人文系の研究者にも沙漠学界に負けないよう頑張って欲しいものである。