◆桜の花の憂鬱2010/04/13

 桜の花は幸せ者である。満開に咲き誇れば「花の雲」と謳われ、風に散れば「花吹雪」と称えられ、「飛花」だ「落花」だと句にも詠まれる。今年の春は体力の衰えた人間にとっても夏野菜の苗にとっても突然にやってくる寒気にさんざん苦しめられる年になった。だが桜の花にとっては希に見る長寿の年であったろう。多くの人が花に浮かれ、永く花見を楽しむことができた。昨日は久しぶりに都内へ出かけ、新宿御苑の桜がまだ咲いているのにも驚かされた。


 かつて日本人は自分の手で道具をつくり自分の手で植物を育て、それを食料にする生活を送っていた。そうした暮らしから遠ざかるようになって半世紀、今や新しい世代だけでなく、そのことを選択した世代でさえ自分たちが口にする食べ物について、それが畑や田圃などの地面で栽培された物か、海産物か、それとも管理された工場内で機械的に生産された物かを一々気にすることなく消費している。気にしなくても金さえ出せば手に入る。マスコミも花見の華やかさは伝えても、マグロの漁獲禁止や規制は記事にしても、その陰で進行する気象の異変が何をもたらすかまでは考えない。人間もまた動物であり、地球生物の一部に過ぎないことを忘れかけている。

  吹きたまり落花のこころ鎮まれり 辻 蕗村