◎四月馬鹿・万愚節--季節の言葉2010/04/01

 きょう4月1日は英語で April Fool's Day とも呼ばれている。だから四月馬鹿はこの April fool の部分を直訳したものと考えてよい。だが fool に馬鹿という語を宛てるのがよいかどうかは考え物である。英語では用心していても、つい巧みな hoax に乗せられてしまう人々のことを fool と呼んでいる。hoax とは人を担ぐことの意で、冗談交じりの悪戯や悪ふざけを云う。西欧とは文化的な伝統が異なるので微妙なずれがあって日本語に替えにくい言葉のひとつと云えるだろう。起源についても諸説いろいろあって、実際のところはかなり古くから行われていたようだとしか云いようがない。


 感心するのは西欧の人々がこの hoax なるものが大好きで、担がれることを楽しんだり、心待ちにしているように見えることである。本を出す人があるかと思えばデータベースをつくる人もあって、皆それぞれに楽しんでいる。その中の The Top 100 April Fool's Day Hoaxes of All Time(四月馬鹿歴代100位)というサイトから愉快な話を紹介しよう。話のきっかけは hoax だが、その hoax を創作し、これをニュースとして伝えたこと、それによって多くの人々が担がれたことは実話である。

 ⇒ http://www.museumofhoaxes.com/hoax/aprilfool/ 四月馬鹿歴代100位

 第1位は1957年の英国BBC放送のニュースショー番組「パノラマ」である。お堅いことで知られるBBCのニュース番組だが「スイスでは暖冬のお陰で心配されたゾウムシの発生もなく、農家は大豊作となったスパゲッティの収穫に大忙しです」と報じた。そして、枝から垂れ下がる見事なスパゲッティを前にした女性を映し出すことも忘れなかった。多くの視聴者がこの演出に乗せられ、あろうことかBBCへスパゲッティの栽培法について問い合わせる電話までかける騒ぎとなった。BBCがそれらの問い合わせにどう応えたかは上記のサイトでお確かめいただくか、または明日のつづき(第2回)をお読みいただくことにして、ここでは日本における四月馬鹿の hoax 報道を考えてみたい。

 BBCは日本で云えばさしずめNHKというところだろう。そのNHKが正午か夜のニュースで「民主党の小沢幹事長が先ほど緊急記者会見を開き、健康上の理由から政界を引退することにしたと発表しました」と流したら、日本全国どんな騒ぎになるだろうか。きっとこれでは余りに生臭すぎて NHK会長は辞めざるを得なくなろう。

 では、「アメリカ商務省は先ほど緊急記者会見を開き、トヨタのプリウスには何らの欠陥もないことが明らかになったと発表しました」はどうだろう。発表時刻はもちろん東京の株式市場が閉まった後である。しかしそれでもニューヨーク市場との関係があるからこれも物議を醸すだろうし、米国側もきっと面白く思わないだろう。みんなが笑ってすまされる hoax の創作というのは決して容易(たやす)いことではない。この点、次の句は内容こそ個人的なものだが親の複雑で微妙な気持が表現されていて思わず同情してしまう。愛娘から突然告白されて困惑する、明治生まれの作者の顔が浮かぶようだ。(つづく)
  みごもりしことはまことか四月馬鹿 安住敦

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