○柚子(3)--実りの秋2009/10/28

 ミカンの古称である柑(カン)もその実は柑子(カンシ)と書き、和名ではカウジ(コウジ)と称している。松の実は松笠と呼ばれる球果の中の鱗片に付いていて、松子(ショウシ)と呼ばれる。みな同じ理屈に基づく呼称だろう。
 ところでユズは漢名だろうか和名だろうか。漢字の柚は木偏に由と書く。そのためか多くの辞書が音は旁の由にあると見てイウ(ユウ)と記し、訓を「ゆず」としている。つまり柚子の音であるイウズ(ユウズ)が訛って和名のユズが出来上がったと見ている。しかもユズは実だけでなく植物そのものをも表す言葉になってしまった、と言いたげである。
 だが、この説は柚がもつ呉音ユの役割と歴史を見落としている。漢音が伝わる前に朝鮮半島経由で伝わったと推測される苗木の柚(ユ)と、その実である柚子(ユズ)の歴史を忘れている。日本料理や俳句の世界には、こうした先人達の営みを想起させる痕跡が少なくない。(つづく)
  山の子がたべてにほはす柚の実かな 飯田蛇笏