◎アジサイ回顧(5)--夏便り2009/06/29

 明治政府は江戸生まれの大槻文彦に近代国家に相応しい国語辞書の編纂を命じ、明治24年(1991)日本最初の五十音順辞書「言海」を完成させます。これを大槻が生涯をかけて増補改訂したものが「大言海」です。完成は昭和12年(1937)、大槻が没した9年後のことでした。大槻が増訂作業で特に力を入れたのは用例の採取と語源の記述でした。
 語源の記述ではアジサイも大槻を大いに悩ませたことが想像できます。大槻は契沖の味狭藍説に与することは止めて独自の解釈を展開しています。辞書の編纂に当たって先人の業績を参照したことは当然ですが、平安末期に成立した漢字辞書「類聚名義抄」が紫陽花に対し「アヅサヰ」と和訓を付けていたからです。大槻はまず「アヅサヰ」なる言葉が生まれ、それが万葉時代に「味狭藍」や「安治佐為」の字を当てる言葉「あぢさゐ」に変化したと見たのです。
 そして「アヅ」は集まるの「アツ」であり、「サヰ」は真藍(サアヰ)であるとして、これを「アツサアヰ」からの約転によって生まれた語だと結論づけたのです。約転とは音素や音節が脱落したり融合して別の音節となることです。この例で言えば「アツサアヰ」が「アヅサアヰ」と濁音になり、さらに「ア」の音が脱落して「アヅサヰ」に変わることを指します。(つづく)

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