○梅の実は青し--夏便り2009/06/18

 昔、梅の実は白加賀と呼ばれる品種のそれが最上と信じていた。黒い点々のふすべもなく全体が薄緑をしていて気品がある。実の大きさもまずまずだ。たくさん収穫できる生(な)り年は子供心にも嬉しかった。収穫の日ははしゃぎ回り、木にも登り活躍した。それが大人になって、ある時、梅干し用には南高梅と呼ばれるさらに上の品種があると知って驚いた。
 八百屋の店先に並ぶ南高梅の多くは青梅ではない。黄色や薄紅色に熟している。これを長い間、売れ残りの熟しすぎと思っていたのだ。梅の実の漬け物は青梅を干さずに固いまま紫蘇と漬け込んで、その歯ごたえを楽しんできた。柔らかい梅干しは漬け損ないだろうと信じて疑わなかった。あの酸っぱさにも堪えられなかった。干して漬け果肉の多さと柔らかを競う梅干しが製法も使う梅の実も梅漬けとは全く異なるものであることを知らなかったのだ。

  梅の実は葉よりも青し葉の中に  八木絵馬

○紫露草の色--夏便り2009/06/18

 野草の露草に似ていないこともない。どこに注目するかで印象も異なったものになる。一般に露草の方がシアンの青味が勝っていると言えよう。紫露草の場合には随分と赤味を帯びたものもあって驚かされる。アジサイの色について触れた際に文献も含めて紹介したアントシアニンの影響だろうか。そう言えば茄子(なす)の皮の色にも、この配糖体の影響があるそうだ。夏はアントシアニンがいろいろなところに顔を出し、青味赤味と活躍して季節感を演出している。

 ⇒http://atsso.asablo.jp/blog/2009/06/10/ 発色の秘密--アジサイの季節

○桜桃忌--夏便り2009/06/18

 忌は忌日(きにち)の意で、故人の命日をいいます。明日6月19日は作家太宰治を偲ぶ桜桃忌です。しかしこの日は太宰の誕生日には当たりますが命日ではありません。強いて言うなら、その遺骸が発見された日に当たります。命日は入水自殺を決行した1948年(昭和23)の6月13日とするのが一般的です。
 桜桃は太宰の最後の小説(「櫻桃」実業之日本社、昭和23)に付けられた題名です。行き詰まっては心中を繰り返し、最後に息詰まって帰らぬ人となった太宰ですが、その作品や為人(ひととなり)には凡俗と重なり合う部分と凡俗には容易に窺い知ることのできない闇の部分があるように感じます。それ故に人気も高いのでしょう。
 明日は奇(く)しくも太宰生誕100年、長寿国日本では精進の人であればまだ存命しているかも知れない年齢です。いたずらに商業主義の宣伝に踊らされることなく、太宰が遺したものと太宰後に日本人が獲得したものとについて考えてみるよい機会でもあります。
 写真は虚子の句に倣って撮したものです。サクランボは山形県東根市から届いた佐藤錦です。サクランボの漢字表記には桜桃の2文字が使われます。この上なく贅沢な季節の果物と感じます。贈り主の有難く温かな気持に感謝しながら頬ばっています。

  茎右往左往菓子器の桜桃  虚子

■与党--新釈国語2009/06/18

 漢字の与は予の字形が変化して生まれた文字であり、原義は「与える」にあると言われる。そのため文字面だけで言葉の意味を知ることは困難になった。原因は新字体の採用にあり、元の表記である與黨にまで遡らないと説明できない。
 旧字体の與には「くみする」とか「仲間になる」という意味が含まれ、これが与党の本義である。すなわち政党政治において政権にくみする党を表す。政権与党などと呼ばれる所以である。反義語は野党。

■野党--新釈国語2009/06/18

 政党政治において政権を保持する側とは反対の立場にある政党のこと。在野の党の意。元々、野(や)は君主が政(まつりごと)を行う場所としての朝廷やそれを補佐する役目を負う官庁に対する語であり、朝廷や官庁の側には属さないことを表す。明治初期、征韓論に破れた西郷隆盛等が官職を辞して下野(げや)し、これが後の西南戦争を招いたとされる話は余りにも有名。政党政治が始まる前の、政争が時に内戦を引き起こすほど激しかった時代のことである。反義語は与党。