○玉縄桜(覚書)2010/03/13

 昨日、写真を載せた玉縄桜についての話です。発見から40年も経つのにさっぱり広まらないと嘆く声を耳にします。それでもインターネットのお陰でしょうか、今年はあちこちのブログに顔を出すようになりました。但しブログには狭い範囲の見聞や、根拠不明の伝聞を書き散らしただけに過ぎないものも見かけます。この品種の育ての親でもある神奈川県立フラワーセンター大船植物園は、こうした点についてもっと積極的に情報の発信に努めるべきです。インターネットがその武器になることは言うまでもありません。


 玉縄桜は1969年(昭和44)に上記の大船植物園で発見されました。ソメイヨシノの自然交雑による実生の株から選抜・育成されたものです。花の色や開花時期から見てソメイヨシノと大寒桜(おおかんざくら)などカンザクラ系の交配したものだろうと推定されます。しかし例えば大寒桜も交配種ですが、それが寒緋桜(かんひざくら)と山桜の交配なのか、寒緋桜と大島桜(おおしまざくら)の交配なのかは今ひとつはっきりしません。玉縄桜がこうした早咲き系の桜のいずれから最も強く特徴を受け継いでいるか、今後の研究が待たれるところです。


 ところで玉縄桜という呼称が品種登録されたのは1990年(平成2)4月6日です。観賞樹としての登録番号は2263、品種登録の有効期限は18年でした。育成権は1995年4月7日に消滅しています。興味深いのは品種登録出願時の名称が「柏尾桜」だったことです。しかしこれは「品種登録できない品種名称」とされる3つの名称のうちの「出願品種に関し誤認を生じ、又は識別について混同を生じる恐れのある品種名称であるとき」に該当する可能性が高いとして再考を求められ急遽、現在の名称に変更されました。

 最初の案の「柏尾」は大船植物園のすぐ隣を流れる柏尾川のことです。藤沢市内に入って境川と合流する二級河川で、境川は江ノ島のある相模湾に流れ込んでいます。これが、電卓・時計・カメラなどのメーカーとして知られるカシオ計算機株式会社の CASIO と誤認・混同されるのではないかと懸念されたようです。後者のカシオは創業者一族の名字である「樫尾」に基づくものですから、漢字で書けば十分に区別が可能なはずの名称です。この辺が品種登録の難しい点でしょう。


 もうひとつ興味を覚えるのは品種登録時における玉縄桜の開花が育成地である鎌倉市の場合で3月中旬とされていたことです。現在はこれより遙かに早くなっています。今年、大船植物園では2月下旬に見頃を迎えました。なぜ2週間以上も早まっているのか、この点も他の桜の例や地球温暖化の問題も含めて大変気になるところです。(了)