言葉の視覚化2009/02/20

 音声は発せられると空気を振動させながら伝わってゆく。そして誰かの鼓膜に届き、言葉として受け止められれば意思疎通の用をなすが、届く範囲に誰もいなければ瞬く間に消え去ってしまう。発せられて鼓膜に届き、意味するものが理解されて初めて、音声は意思疎通の手段として働くことになる。
 しかし人間の声が生み出す空気の振動は大きくない。音声に託された表現手段としての役割は瞬間的であり、伝わる範囲は身の周辺に限られている。書き言葉は、こうした瞬間的な表現手段である音声を目に見える形の何か別なものに置き換えることによって、表現手段としての寿命を引き延ばそうとした工夫だと言えるだろう。
 音声を目に見える別の何かに置き換える努力は、ひとつひとつの言葉ごとに置き換える方法と、ひとつひとつの音声ごとに置き換える方法の2つの努力によって進められた。その結果、前者は新しく生み出した記号に元の言葉がもつ意味とその音声の両方を示す役割を持たせることになった。一方、後者では音声ひとつひとつに対応する単純な音声代替記号を創りあげた。
 音声が目に見える形となり、しかもそれがすぐには消えないものとなったことで、言葉には従来の表現手段という役割に加えて、記録性という全く新しい可能性が生まれることになった。これが言葉の視覚化である。人類はこの視覚化を契機に、やがて地球環境をも危うくするほど急速かつ加速度的に、みずからの文明を発展させることができたのである。