天然物と養殖物(3)2009/02/21

 魚類は動物の一種だが、いま魚類と人類との関係が大きく変わろうとしている。いくら陸生動物の家畜化が進行しても、肺呼吸しかできない人類にとって水生動物の家畜化や飼育は難事業と見なされてきた。それが少しずつ変わり始めている。これまで海洋や湖水や河川において天然自然に生育していた魚類や海老などを人工的な装置・環境の下で人為的に育てようとする試みが始まり、普及を見せている。個人事業の要素が強い小漁船による漁労中心の漁業から、より大きな資本を必要とする栽培型漁業や養殖型漁業への転換が本格化している。
 天然の魚介類や海藻を口にする機会は徐々に減り、遠からず養殖物が水産物の主流を占める時代に入るだろう。そうなれば野菜や果物や食肉がたどったと同様の道を水産物もたどることになる。野生種や原種としての天然物の味を知る人も、それらの味に郷愁を覚える人も稀になる。そうした味との比較ができる人も、比較しようと考える人もいなくなってしまう。
 地球環境が悪化する中で、天然の水産物が高価格で取引きされる理由は何よりもその希少性にある。背景には希少性を高価値と見なす伝統的な価値意識が働いている。しかし魚介類も海藻も人間が口にする食べ物である。身につけるための貴金属や鉱物資源ではない。貴金属並みに天然だから高価値、人造や養殖だから低価値と見なす紋切り型の評価法はいずれ改めざるを得なくなる。人間の味覚には個人差があるし、味や食の好みが時代や世代によっても変わることを忘れてはならない。