天然物と養殖物(1)2009/02/18

 人類は、四足歩行から二足直立歩行に進化しても、食糧については狩猟と採集に頼る生活を続けていた。我々の祖先が農耕や牧畜による食糧生産の技を身につけ、こうした100パーセント自然まかせの生活から脱したのは1万2千年ほど前のことである。日本列島に限って言えば本格的な食糧生産の歴史はさらに短いものとなるだろう。いずれにせよ地球上に人為の及ばない天為のままの生物と人為の加わった生物とが併存するようになったのはこのときからである。
 植物には野生種に加えて栽培種が登場した。セリ科の多年草であるミツバを例に挙げれば、山野に自生する丈の低い昔ながらのミツバに加えて、人間が住居の周りに移植したり種を蒔いて育てる姿のよい大きめのミツバが現れた。動物では野生種の家畜化が試みられて犬や農耕馬の普及が進み、イノシシを改良した成長の早い食肉専用の豚が誕生した。
 人類の歴史にとって1万2千年は一瞬にも等しいほどの短いものである。が、人間の暮らしぶりや味覚を変化させるには十分すぎるほどの長い時間であった。栽培や飼育という新しい技を身につけた人類は、生産量の増大や栽培・飼育期間の短縮を目指して挑戦を続け、さらに味や食感などの改良にも意を注いだ。その結果、陸生の植物で野生種だけを常食にする民族は稀となり、食用には栽培された野菜や果物などが専ら供されることになった。

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