簑ひとつ山吹(1)2009/05/13

花は咲けども…
 太田道灌は室町中期の武将です。江戸の地に後の江戸城の原型を築いた人として知られていますが、歌人でもありました。扇谷上杉家に重臣として仕え、のち山内上杉家の策謀に遭って主君の手で暗殺されてしまいます。
 この道灌が、あるとき狩りの帰りがけ突然の雨に見舞われました。近くに粗末な人家が見えたので立ち寄って簑を貸して欲しいと頼んだところ、現れたその家の娘が花を付けた山吹の枝を差し出し、次の和歌を詠んだと言われています。

 七重八重 花は咲けども 山吹の 実のひとつだに なきぞ悲しき

 道灌は山吹の「実のひとつだになきぞ悲しき」が、山吹の枝を差し出した娘の気持「(貧しい)我が家には、お貸ししたくても簑ひとつございません」を暗示していることに気づきませんでした。心機一転和歌の道に励んだのは、この時の不明を恥じたからだと伝えられています。
 山吹は非常に繁殖力の強い植物です。山の斜面の日当たりのよいところはもちろん多少陽当たりが悪くても、落ち葉など腐葉した土の養分を吸って地下茎をどんどん延ばし勢力を拡げてゆきます。ですから子どもの頃に道灌の話を聞いて、山吹が花は咲いても実を付けることは決してなく、もっぱら地下茎に頼って繁茂しているのだと信じていました。

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