○凌霄花--盛夏2009/07/29

 七月の声を聞く頃に咲き始め、土用の前後に高い位置で咲く赤い朱色の花々を見かけたら、まずこのノウゼンカズラである。この時期、朱色はノカンゾウの花の色でもあるが、ノカンゾウは草の中に、ノウゼンカズラは這い登って空中に咲く。よく目立つ、遠目の利く花と言えるだろう。
 中国が原産の蔓性の植物で、とにかく高いところが好きである。漢名を凌霄花(リョウショウカ)という。凌はしのぐ意、霄は空の意であり、凌霄は空をも凌ぐ志の高いさまを指す。中国の人々もこの植物に限っては、空高く登って咲き誇る花の姿に目を止めたようだ。よく似た色の、もっと筒型をした花を付けるのはアメリカノウゼンカズラと呼ばれる。なお花の色に違わぬ毒性を持つ植物とも聞くが真偽を確かめたことはない。無理に手を伸ばさず、遠くからただ眺めるのが安全かも知れない。

  のうぜんに風すこしある土用かな 内山起美女

■泥縄式--新釈国語2009/07/29

 普段の準備を怠り、いざというときになって大慌てで準備を始めることを喩えていう。「泥棒を捕らえて縄を綯(な)う」の略といわれ、単に泥縄ともいう。泥棒を見つけて捕まえても、いつまでもその身体を押さえつけたり腕をねじ上げているわけにはいかない。縄で縛り上げて役人に引き渡すのが普通だ。ところが肝心の縄がない。泥棒が入るなどとは夢にも思わないから、そんな準備はしていない。そこで慌てて縄を綯い始めるのである。
 衆議院の解散は議員にとっては首切り宣告にも等しく即失職を意味する。普段、有権者に向き合うことなく永田町界隈で暮らし、料亭などに足を延ばすだけの議員は解散権をちらつかせる総理大臣が死ぬほど怖かった。昨今はそんな不安がなくなった代わりに、いくら縄を綯って準備をしていても泥棒の方で怖がって、さっぱり来てくれない。泥棒も予告をして、すったもんだした挙げ句でないとなかなか顔も出せない時代になった。だからこの喩えは第45回衆議院議員選挙には使えない。いま当てはまりそうなのは「アニメの殿堂」騒ぎで忙しい文化庁くらいだろう。

○待宵草(1)--盛夏2009/07/29

 これまでいろんな花について文献に記録されたこと、花を見て感じたことなどを述べてきた。そうした花の多くは二千年以上も前から日本列島に存在したと考えられているものか、または仏教や漢字などと一緒に中国大陸から渡来したと見なされているものだった。そのためどうしても謎の部分や不明の部分が多くなってしまう。
 ところが今日の写真の花に限って言えば、日本人との関係は150年かそこらしかない。十分の一以下の短さである。にもかかわらず今では3つの呼び名をもつほどの有名な花になってしまった。それらの中には別種の花の名前まで混じっている。何故そんなことになったのか、その理由を考えてみたい。(つづく)