霞と朧と霧と靄2009/04/02

 俳句でも和歌でも霞と霧は厳然と区別して用いる。春は霞、秋なら霧である。だが気象の世界では霞を雲や霧と区別することは無理なようだ。そうなると、せっかく先人が築いた万葉の景色や優美繊細も古今集の「もののあわれ」も「春は空気中の水滴と微細な浮遊物が結合して漂うからどうしてもこんな感じに見えるわけですね」で片づけられかねない。科学の力も時によりけり、風雅を楽しむときは忘れた方がよさそうだ。
 和歌や俳句の世界が鋭いと思うのは季節の区別ができるからだけではない。昼と夜の区別もちゃんとしていて、お日様のあるうちは霞、日が暮れて月が出れば朧(おぼろ)と呼び分けている。さらに感心するのは、霞とよく似た靄(もや)に手を出さないことだ。気象用語では霧よりも見通しのよい状態を指す言葉だが素人目には区別が難しい。種類も朝靄、夕靄、夜の靄、川靄、山靄、薄靄(うすもや)、雨靄(あまもや)などいろいろある。調べてみると小説では漱石(草枕)、藤村(夜明け前)、秋声(縮図)が春の描写に使っていた。察するに小説の描写には利用できても、単にモヤモヤするだけでは詩情も涌かないし、季節感をくすぐることにもならないのだろう。

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